第6話「ミミック」

 そして翌朝。

 日が昇る頃には、迷宮の入り口へと辿り着いていた。


「到着! いやー長い道のりだったね」

「……死ぬ」


 バタン、と荷物を放り出し、そのまま体を横に倒す。

 荷物の重さもあって、到着する頃にはすっかり疲弊していた。


「あちゃー……ちょっと休憩挟もうか」

「お願い……」


 この迷宮は、入り口が山の上部に位置しており、途中からはほとんど登山のような道のりだった。

 先行調査とはいえ、ここはもっと人数を揃えて挑むべきだろう……。


 言っていなかったが、今回の依頼の推定等級はB級。

 そもそも探索報告が入り口以外にほとんどなく、どれほどの危険度なのかも分かっていない。

 とりあえずB級として扱っている——そんなところだろう。


 ……もしかして、これって誰も帰還できていないから報告がないのでは? だとしたら相当恐ろしい迷宮ということになる。

 僕はとんでもない依頼を受けてしまったのかもしれない。



 

 軽く休憩を挟んだ後、改めて突入準備を整える。


「さぁ、迷宮だよ迷宮。楽しみだね~」

「あの、アイラ。迷宮って、罠やら敵がうじゃうじゃいるイメージなんだけど……こんな荷物持ってて、僕大丈夫なの?」

「えーと……そこはまぁ、がんばってください」

「こんなの持って戦闘なんてできるわけないよね!? 置いて行っていい?」


 せめて、野営道具くらいなら置いていきたいんだけど……。


「ダメ。もし迷宮の中で迷ったら、いつ出られるかわからないよ? 少し持ってあげるから頑張って」


 そう言うと、僕のバックから予備の剣を2本だけ持って、歩き出した。

 ……ほんとに“少し”じゃん。

 

「ソウヤくん、見て! 宝箱だよ!」


 迷宮に入って早々、アイラがはしゃいでいた。

 僕より冒険者の経験は長いはずだが、迷宮探索はそうそう行けるものではないのだろう。

 実際、そこには宝箱があった。

 見るからに興味をそそられる、美しい形状。

 ——が、どうにも疑わしい。


「罠じゃないですか? こんなあからさまに置いて、怪しさ満点じゃないですか」


 宝箱は道のど真ん中に鎮座している。


 こんなの罠に決まってる……。


「ロマンがないなぁ。いいかいソウヤくん、こういうのは開けてみてから決めるんだよ。それっ、お宝ちゃん出ておいで——」


 そう言ってアイラが宝箱を開けた、その瞬間。

 牙の生えた口がぱっくりと開き、アイラを丸呑みしかけた。

 宝箱に化けたモンスター、ミミックである。


「——うえぇ!? やばいやばいやばいやばい!!!」

「だから言ったじゃないですか!!」


 アイラは持っていた剣で、なんとか飲み込みを抑えていた。

 すぐにミミックに斬撃を与え、撃退した。


「あはは、助かったよ、ソウヤくん」

「気をつけてください……」


 笑顔で礼を言うアイラに、僕はため息をついた。


 ミミック。推奨等級はB級。

 斬った感触としては、外皮が硬い以外はそこまで強い敵ではない。

 だが、その真に恐ろしいところは“初見殺し”にある。

 A級の冒険者であっても、知識がなければ簡単に死ぬ。

 その故のB級なのだろう。


「あ、ソウヤくん! ミミックの中に何かあるよ!」


 アイラがミミックの口の中に身を乗り出し、ごそごそと探り始めた。

 ……倒したとはいえ、さっきまで飲み込まれかけていたモンスターの腹の中に入るのはどうなんだろう。

 しばらくして、にゅるっと顔を出した。


「見て! 指輪あったよ!」


 なかなか綺麗な指輪だった。

 指輪の価値とかわかんないけど。


「付与魔法とかはない感じ? だったら良い値段で売れそうだね」

「むー、指輪を見た感想がそれなの? 相変わらずロマンがないところ、似てるね……」

「誰がミミックの腹の中から出た指輪で喜ぶんだよ……」


 金目のものか実用性を見る以外、何があるんだろうか。


「……というか、“似てる”って誰のことですか?」

「ふんだ。別になんでもないよ~」


 拗ねた。

 気に障ることでも言っただろうか?

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