第4話「アイラとの出会い」

 今から二十年前——


 とある日の朝、孤児院の玄関にカゴがひとつ置かれていた。

 中には生後2か月ほどと思われる赤ん坊。

 赤ん坊がどこから来たのか、誰が置いたのかは分からなかった。  

 その子はソウヤと名づけられた。


 ソウヤが17歳を迎える頃、世界に“勇者”が誕生した。

 その名はユウヤ。仲間と共に各地を巡り、魔王の配下である魔族たちを次々と討ち取り、 いつしか世界で唯一のS級となった。


 そして、いつしか噂が生まれた。

 ——あの勇者に、どこか似ている少年がいるらしい、と。

 

 同年代だったこともあり、ソウヤは「勇者の生まれ変わり」などと噂され始めた。  

 最初のうちは、少し誇らしい気持ちにもなった。だが、本人ではないと分かると、今度は——

 「偽勇者」と呼ばれた。

 そんな言葉が投げられるようになると、ソウヤはいい気分ではなかった。


 そしてソウヤが18歳になる頃。

 勇者出生の国、ルインズ王国から、突然の発表がなされた。


 ——勇者ユウヤ、死亡。


 半年ほど前から行方不明とされていたが、詳細は不明のまま。

 誰に討たれたのか、どういう経緯で命を落としたのか、何も明かされないまま、ただ「死亡報告」が発表された。

 世界は悲しみに包まれたが、ソウヤにとっては——むしろ静かでありがたかった。

 「偽勇者」と呼ばれることも減り、肩身の狭さも和らいだ。


 それからしばらく経ったある日。

 当時、E級としてギルドの下級依頼で日銭を稼いでいたソウヤのもとに、一人の少女が現れた。


「ユウヤくん?」


 そう声をかけてきたのは、当時18歳、A級冒険者のアイラだった。

 アイラはソウヤを一目見ると、勇者と勘違いした。


「ユウヤ? いえ、僕はソウヤです。人違いですよ」

「え……あ、嘘? ほんとに別人? あまりにもそっくりなものだから……」

「なんですか? 偽勇者を見たいだけなら声をかけないでくださいよ」


 ソウヤはすでにこの反応に慣れている。

 というより、少しうんざりしているようでもあった。


「あ、いや、そういうわけじゃ……あ、そうだ。ちゃ、ちゃんと君に用があるんだよ!!」

「用? A級が僕になんの用ですか?」


 アイラはごまかすようにソウヤに用があると言った。


「君、私とパーティを組まない?」

「……はい?」


 A級からの唐突な提案。

 E級にとって、それは現実味のない話だった。


「……どうしてですか?」

「えーと……人探しを手伝ってほしくてね」

「いや、僕じゃなくてもいいじゃないですか」

「……いえ、あります! それはあなたが"勇者"に似てるからです!」


 人探しをする際は、対象の特徴や似顔絵をもとに人づてに聞いて回るのが一般的だ。

 勇者に似てる。それだけで頼む価値があった。


「人探しって、勇者のことですか? 勇者はもう亡くなって——」

「そんなことありません!! 生きてます!」

「……ルインズ王国の報告は嘘だというんですか?」

「そうです、だから探しに行くんです! 手伝ってください!」


 変な人だ。とソウヤは思った。だが別に悪い話でもなかった。

 当時、日銭を稼ぐだけの生活だったソウヤは広い世界を知らない。

 試しに旅に出るのも悪くないと、ソウヤは思った。


「……わかりました。人探しという依頼であれば」

「ほんと! やった! ついでに二人探したいんだけど」

「まだいるんですか……?」


 そうして、長い旅が始まった。

 最初の1年ほどはいろんな国へ行き、勇者を探した。

 ……が、大きな成果は得られなかった。

 いくつかの目撃情報はあれど、長く滞在した記録は残っておらず、勇者以外の二人の情報すら一切なかった。

 そうして、アイラは勇者捜索の話をしなくなった。


 いつしか、ソウヤの修行を見るようになり、今の関係が出来上がる。

 彼女の言った人探しはまだ続いている。


 そして、その人探しが終わるのは、次の依頼から2週間も掛からなかった。

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