三題即興小説まとめ

明たい子

ゲシュタルト崩壊、年中無休、シャーウッドの森

「おはよう諸君」

 そう言って意気揚々と目の前に現れたのは、ロビン=フッドという人物。

 僕はまだ夢でも見てるのかと周りを見渡した。見覚えのない森の中にいた。服はパジャマのままだ。

 わかりやすく瞬きの回数を増やして状況が飲み込めていないことを全面に出していると、学校の先生さながらにその男が近づいてきた。

「どうした。未だ夢でも見ているような顔をしているな」

 にやり、と見下ろされた。

「あなたは誰ですか」

「君は知ってるはずだ。ほら、金ローで昨日見たばかりじゃないか」

 それならやはり、ロビン=フッドで間違いなさそうだ。となると、これはやはり夢のようだ。確かこの男は英国の英雄で存在しない人物なのだから。

「だとしたらこれは夢ですね。あなたは存在しない」

「目の前にいるのに存在しないとは、何を言っている?自分の目で見たものすら信じられないのか」

「いえ、そう言うことではなく僕が今まだ寝てるかどうかって話で、、、」

「そんなことはどうでもいい。寝てたら何だ?起きてるから行動が変わるのか?」

「そりゃそうだよ。夢なら僕の自由にやっていいだろうけど、起きてたら周りにどう思われるかとか、損得とか色々考えないといけないし」

「その考えがめんどくさい。夢なら私の発言もお前のものだろう。真逆のことを言ってるじゃないか。心の底ではそんなことどうでもいいとわかってるからこそだろ」

 そう言われるとそんな気がしてくる。どうでもいいわけないが。

 とにかく、状況が読めないがそんなこともどうでもいい。英雄だかヒーローだか目の前にいるんだから、何かどうせなら話のネタになりそうな、面白いことをしてもらいたいものだが。

「なあ、ロビン。英雄を名乗るってことは年中無休で英雄でいなければならないのか?たまには休みの日があるのか?」

 ロビンは首を傾げる。タッパがある英国紳士がする仕草にしては可愛らしくて、そのアンバランスさがお茶目で英国人とは何をしても映えるのだなと感心する。

「英雄は仕事ではない。私の仕事は世直しだ」「別に気が向かない日もあるし、世直しと言ってしてることは、まあせいぜい強奪と施しだな」「よーするに、年中無休といえばそうだし、年中休みといえばそうだ」

 豪快に笑う。何もおかしくないけど、笑っておこう。

 英雄って何で呼ばれてるんだろう。確かに、泥棒が盗んだ品を使って慈善をしたところで、マイナスがゼロにもならない。ただの自己満で偽善でしかない。それを褒め称えられる作品を見たのだっけ。そんな印象はなかったはずだ。

「所詮、英雄なんて言われてるらしいが、むかつく奴が金持ってるより、頑張ってる奴が持ってる方がムカつかねえから奪っただけだ。俺の信条に従ったまで」

「そんなものなんですね」

 なんだか、そんなものなんだとすとん、と落ちた。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 目が覚めた。

 外はまだ暗かった。まだ寝れるのにと薄暗い中目覚まし時計を光らせると、4時だった。

「やっぱり夢じゃないか」

 ふとそう思った。なんだっけとも思った。

 けたたましく鳴り響いた時計を止め、仕方なく体を起き上がらせて、ひとまずテレビをつける。

「あ。ロビン」

 テレビの画面で昨晩途中まで見た金ローの録画でロビンが施しをしていた。

 見せつけられるような気分がしていた画面は、今は悪友の日常を見かけたような気分がした。

 自分の中の英雄がゲシュタルト崩壊して、英雄は英雄でなくなった。

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