第47話 私の体って益々敏感になっているような……気のせいかな

 反省しているのか随分と大人しい茜と手を繋ぎながら入場券を購入し水族館の中へ入っていた。薄暗い館内を一緒に歩き始める。


「精子みたい……」


「え!?」


「……何でもないです」


 水族館ならではの大きな魚でなく水槽を泳ぐ小魚を見る茜は、ぽつりと小声で呟いた。周りに誰もいないからか気が少し緩んで、思ったことを口に出してしまったのだろうか。少し恥ずかしそうに俯きながら、内股をモジモジとさせる。恥ずかしそうな表情をする茜は、客観的に見てかなり可愛いと言えるのだが過程が最悪であるため白い目で辰馬は彼女を見つめる。


「そうか。もう少し大きなやつ見に行くか」


「うん。でも、小さい魚ってのも可愛いね」


「そうか?……まぁそうかもしれないな」


 家に水槽などないので、こうして魚が泳いでいる姿を見るなんて初めてのことだ。茜の言う通り改めて見てみると、小魚の群れは一つ一つが小さくとも集まれば大きく迫力があった。


「そうだよね?辰馬君って大きい方が好き?それとも……小さい方が好みなの?」


「……さぁどうだろうな」


「答えてよ!」


「……ッ!」


 発展途上の自身のプロポーションと神が創造したと表現されるほどの美貌を持つ茜は、自身無さげに辰馬へ訊ねる。


 男子の平均よりも大きな身長を持つ彼女は、モデルとしてならば天賦の才を持つと言えるだろうが、恋愛となれば話は別である。辰馬の好みが身長の小さい人物ならば、どうしようかと目に涙を浮かべそうになりながら不安を堪えながらも逃げようとする辰馬の手を強く引っ張る。


「ごめんね…でも、でもね、私凄く不安なの。今まで感じたことのない幸福感……これが消えちゃうんじゃないかって……。数カ月前にお父さんは亡くなって、母さんは私の事を他の男に売ろうとする。私には、もう辰馬君しかいないんだよッ!」


「ハァ……突然どうしたんだ?それに、祖父母がいるだろ?」


「……あの人たちは別に私の味方じゃないよ。私の父が生前絶縁するような親だよ。母さんを叩いて別の人間を会社のトップに据えようとしているだけ……私も対応を間違えばあの人たちの奴隷になる……かな」


(なんて恐ろしいことを言うんだ……しかも、こんな水族館でッ!)


 元々情緒の不安定な茜であるが、大人しくなったかと思えば突然後ろ向きな考えばかり持つようになった。辰馬は茜が自分に捨てられると一瞬でも頭を過ったから、ここまで辛そうにしているのだと推測した。ならば解決策は簡単だ。


「茜さん……ちょっと失礼」


「……な、何しているの?」


――スゥ


 枝毛など一つもない綺麗な栗色の髪を辰馬は一束掴み自身の鼻へ持っていき匂いを嗅ぐ。その様子を茜は驚いた様子で見つめながら、緊張のためか硬直したように体が固まる。


「うん……茜さんは凄く良い匂いがするな」


「イヤぁ……ダメッ」


「何が?」


「は、恥ずかしいよぉ……//」


「そう?でも、茜さん凄く嬉しそうな顔しているぞ?」


「こ、これは……」


「そういえば身長の答え言っていなかったな……」


「んぅっ、く、くすぐったいよぉ!」


 膝上程度までの長さの白のワンピースを着た茜の太ももに指をつんと突き刺す。そしてきめ細かくシミ一つない色白の肌と柔らかな太ももをじっくりと手の平で、触りながら徐々に上へと進めていく。


「でも凄く気持ちよさそうだぞ?ほんと、こんな水族館の中でも発情するなんて、エロいモデルさんだな」


「こ、言葉攻めッ!う、嬉しっ!」


「これも喜ぶのか……ほんと救いようがない」


「んふぅ…、あっ、あはぁぁっ…」

 

 辰馬の言葉に返答する余裕すらない茜は、喘ぎながらも太ももを触る辰馬の手のひらから伝わる快感と誰か来てしまわないかという不安が脳内を支配する。先ほどまであった辰馬から捨てられるのではないかという不安は一切なかった。


「返答する余裕もないか?でも聞こえているよな?さっきの身長の答えだが……俺は高い方が好きだぞ?それに……胸の大きな女は大好物だ」


「……ッ!あっ、アアッーー!!」


 耳元で囁くと茜は、身体を限界まで反らせ、叫ぶような断続的な喘ぎを上げると絶頂する。寸でのところで辰馬の手が茜の口元へ覆われたため、声が響くことなかった。


 触らなくても分かるだろう濡れきった秘部へと顔を近づけた。むわりと雌の発情した匂いが鼻をつく。わざとらしく鼻を鳴らしながら辰馬は茜の匂いを嗅いだ。


「……綺麗な脚だなぁ……それに濡れ濡れでいい匂いまでする。最高だな」


「や、やめてぇ……これ以上は」


「それもそうか……」


 水槽のガラスを背にして、崩れるように荒い息をしながら苦しそうにしていた。元々数日間辰馬と体を重ねても耐えられるほどの持久力を持つ茜にとって、今程度与えられた快楽などでは物足りないのだろう。これ以上シてしまうと……取り返しのつかないことを本能で理解していたのだ。


「ちょっと休憩していい?」


「あぁもちろんだ……あそこの椅子にでも座ろう」


「うん……」


(……つい自分から茜さんを触ってしまった。しかも、こんな家でもない外で……)


 茜と同居して数日しか経っていないのに、理性が効かないことに自分でも驚いていた。ボクシングにおいても冷静さが特に際立っている辰馬にとっても想定外のことであった。最初の行為から茜が、どれだけ迫っても耐えられると踏んでいたのに一週間も経過していないのに無意識に迫ってしまっていたからだ。


「もしかしたら……」


「どうしたの?」


「いや、何でもない」


「そっか~休憩終了!ペンギン見に行こっ!」


「あぁそうだな」


 辰馬よりも茜の方が切替が速いのか、先ほどまでの痴態をすっかり忘れているかのような雰囲気だった。もしかするとメディア露出の多い茜にとって、スキャンダル等慣れたモノで、辰馬よりも精神的には強いのかもしれない。そう考えながらニコニコと楽しそうに手を引っ張る茜を見ながら感じた。


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