第17話 指だけで気持ちいいよぉ

(そういえば、茜さんデパート内に入った時から凄い険しい表情だったよな……。それに通り過ぎる男の人達に対しても鼻を抑えて、俺の方に寄って来ていたし……)


 茜にとって匂いは重要なモノであり、友達になるには最低でも臭くないという条件があった。そうでなければ、とてもじゃないが一緒に行動していても辛いからだ。その事実を知った辰馬はふと疑問が浮かんだ。


「なら、茜さんって教室で授業を受けている時ってどうしていたの?」


「もう我慢、我慢だよ!あんな臭い環境でずっと椅子に座っている苦行を耐えていたんだよ!まぁ後は、少し言いにくいんだけど……モデルの仕事を平日に入れたりしてなるべく休んでいたかな」


「なるほどな。でも合点がいったよ。茜さんが学校に来ないことは珍しくなかったからな」


「うん。お陰様で留年しかけたよ~」


 ニコニコと明るい笑みで一般の学生なら心臓ドキドキモノの経験をしたことを吐露する。辰馬の通っている学校は進学校であるため、留年する生徒はそれほど多くない。それに彼女がそこまで追い込まれている事実を辰馬は初めて知った。あまり学内でも有名な話ではなかったようだ。


「それでも茜さんって学年トップだよね?」


「うん。小さい頃から英才教育受けてましたから!あ、そういえば、辰馬君っていつも学年二位だったよね?ボクシングもやりながら成績も良いなんて、文武両道だね♪」


 日本どころか世界にも名前が広まり始めている茜と日本チャンピオンすらない辰馬と比べると月とスッポンである。それでも嫌味なく言っているのだろうと分かる茜の快活な口調は、彼女の性格を表しているのだろう。


「……ありがとう。俺なんかよりも茜さんの方が凄いよ。才能だけじゃない……」


「た、辰馬君?」


「やっぱりあった。これってペンダコだよな?茜さんが才能や英才教育だけじゃない。今も努力している証拠だよ」


「んっ…」


 辰馬は茜の右手を取って指を触る。いきなり触られたのかポッと顔を赤くして驚いた様子で、声を上げる。それを無視して辰馬は茜の指を擦る。くすぐったそうに声を上げる茜であるが、恍惚した表情で辰馬の目を見る。


「才能に溺れず、努力し続ける人が俺は好ましいと思う。茜さんの容姿や才能は、ピカ一だろう。それでも手を抜かず努力しているから凄いよ」


「た、辰馬君……。あっ、もうダメぇ~~」


 茜は突然耳を塞いで目を閉じて、荒い呼吸を落ち着かせようとし始める。流石に大きな声を出してしまったからか自販機周りにいた客が此方をチラリと見る。しかし、茜だとは気づかれなかったため、興味を失ったのか直ぐに視線を戻した。


(茜さんって突然意味不明に暴走するけど……変わっているなぁ)


 隣でジッと固まっている茜が落ち着くまで辰馬は待つことにした。これ以上何かして茜が挙動不審な行動をされては困るからだ。


 五分程が経過しただろうか。茜がゆっくりと顔を上げて、辰馬の方へと向けた。


「ごめんね、もう落ち着いたよ」


「そっか。なら、そろそろ行こうか?」


「どこに?」


「ランジェリーショップだ」


「あ、そういえば私の下着買いに行くんだった!」


「しっかりしてよ?ほら、行くぞ」


「うん♪」


 辰馬と茜はベンチから立ち上がり、三階にあるランジェリーショップへと向かう。漸く本命の店へと行けることに安堵を覚えた。このまま茜が暴走すると身バレのリスクもあったからだ。。


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