異世界スプーンおじさん~世界を救う勇者
楊楊
異世界へ
第1話 プロローグ
ここはどこだ?
神殿のような場所。神殿といっても、日本の神社のような場所ではなく、古代ギリシア風の建物だ。そこに女神のような美しい女性、その周りには大勢の人が集まり、人だかりができている。
ふと周囲を見ると、電車で隣の席に座っていたOL風の若い女性がいた。
彼女も俺に気付いたようで、軽く会釈をして、声を掛けてきた。
「これって・・・アレですよね?」
「そうですね。天国だといいんですけどね」
俺は
そんなとき、女神のような美しい女性が厳かな声で、話始める。
「私は創造神エリス。貴方たち108人は、残念ながら命を落としました」
全員に動揺が走る。
予想していたことだけど、改めて聞くとショックだ。隣のOL風の女性は目に涙を浮かべている。
「これから皆さんには別の世界で、使命を果たしてもらいます。それでは、順番に神器を授けます。神器とは
順番に女神様が神器を渡して、貰った者から順に異世界に送っていく。
それにしても事務的すぎないか?
ラノベなんかだと、もう少し説明があるはずだ。それに使命って何だ?
それくらいは説明してもらわないと、使命の果たしようがない。
目の前では、女神が神器を事務的に配り、「期待しています」「応援しています」などの言葉を使い回しながら、流れ作業で、神器を受け取った者を転移させている。
「こちらは、「聖なるスコップ」です。貴方の活躍を期待しています。次の貴方は「神聖なツルハシ」です。頑張ってください・・・」
何となくだが、この女神のことが分かってきた。一言で言うと、「駄女神」だ。
まず、渡している神器だが、最初は「何物も斬り裂く剣」、「何物も貫く槍」といった、「これぞ神器!!」といった物を渡していた。しかし、50人目を超えたあたりから、「切れ味鋭い剣」や「貫通力の高い槍」などの「なんか被ってないか?」、「最初の神器の下位互換?」みたいな武器が登場する。70人目を越えた辺りからは、「聖なる○○」や「神聖な○○」が登場し、
「そもそも最初に「神器は聖なる武器」って言ってなかったか?それに「聖なる」も「神聖な」も同じ意味だろうが!!」
と思わず、ツッコミを入れたくなる。
だんだんと「それって武器なのか?」という物が登場する。「ハサミ」「剪定バサミ」と続き、「高枝切りバサミ」まで登場する。そして今、「高枝切りバサミ」を貰ったおばちゃんと少しトラブルになっている。
「ちょっと、「高枝切りバサミ」って何なのよ。これで何をしろって言うのよ?」
「こちらの「高枝切りバサミ」は高性能で、伸縮自在、普段は普通のハサミとしても、ご利用いただけます」
「私はね、そういうことを言っているんじゃないのよ!!性能に文句をつけたんじゃなくて、そもそもの話・・・」
言い掛けたところで、女神は強制的におばちゃんを転移させた。
「ご満足いただけたようですね。頑張ってください」
(ごちゃごちゃうるせえんだよ・・・クソババアが・・・)
今、小声で「クソババア」って言わなかったか?
心の声が聞こえたのは、俺だけか?
しかし、これは大きな効果があったようで、これ以後、文句を言う者はいなくなった。
その後、90人目を越えたあたりから、女神は面倒臭くなったのか、3人~5人一緒に神器を渡して、転移させるようになってしまった。
「それぞれ「よく切れるカッターナイフ」、「切れ味鋭いメス」、「神聖な鉄パイプ」です。皆さんのご活躍をお祈りしています」
「神聖な鉄パイプ」って何だ?
ただの鉄の棒だろうが!!
とうとう俺の番になった。残っているのはOL風の若い女性と少し不良っぽい少年だった。
不良っぽい少年には「聖なるステーキナイフ」、OL風の若い女性には「聖なるフォーク」、そして俺には・・・
「聖なるスプーン」
スプーンだって!? もはや、武器とかいう問題じゃないだろ!?
これで、「世界を救え」って、ギャグか?
スプーンなだけに・・・
こうして俺たちは、使命が何かを説明されないまま、神器を授けられたのだった。
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