第2話 ミイラ女王の棺と復活の白濁汁

れんが煩悩寺に出てくると今日は寧々子は来ていなかった。


「和尚、寧々子さんは?」


「上手く言いくるめて遠ざけ…、いや本業の川女神業で当分は来れんのじゃ」


「寧々子さん川の女神なんだ、でも遠ざけたって…」


胡乱な目で和尚を見やる蓮だったが、そこに突如巨大な木箱を担いだ謎の黒服集団が山門を潜り入ってきた。


蓮「誰、この人達?!」


黒服達は無言でバールなどを使い木箱を分解、すると中からは煌びやかな黄金色に輝く「ファラオの棺」が現れた。木片を回収し無言で去っていく黒服達。


「いや、何なの!」


間もなく棺はガタガタと振動しだし蓋の隙間から朦々たる煙を吹き出すと、ゆっくりと蓋が開いていく。


中から現れたのは、おかっぱ頭のミイラ。胸と下腹部だけは包帯で隠され他は干からびた皮膚を晒している。女性のミイラのようだ。


女ミイラはヨタヨタと歩き、和尚に抱き付いた。和尚も愛しげにその背中に手を回す。


老婆のような掠れ声が響く。「……逢いタかった!寂シくて、身モ心モやせ細っテしまいました、コんなに……」


「ワシも逢いたかったぞ、砂漠の女王、クレオパトラ8世よ……蓮よ、今日はもう宿坊へ帰っておれ、奥の間は一晩立ち入り禁止じゃ」


「え、今“8世”って言いました!? ナンバリング続いてたの!?」

(※史実では女王としてのクレオパトラは歴史で有名な7世までだそうです。)


蓮のツッコミも虚しく、二人は肩を抱き合い奥の間へと消えていった。


和尚は言い残す。


「蓮よ、今宵は宿坊で休め。奥の間には……決して入るでないぞ」


◆◆◆


翌朝、奥の間の扉が開くと、そこには妖艶なエジプト風の美女が佇んでいた。


「あの方とのの逢瀬で、わたくし身も心も生き返りましたわ」


蓮:「いや、生き返りすぎだって!」


しかしその視線の先には、頭蓋骨と首の骨だけになった白骨和尚が転がっていた。和尚は、乾いた骨の音を立てながら蓮を見上げる。


「蓮よ……わし、もう頭だけじゃ……力が……」


蓮:「和尚、喋りながら頸椎をパタパタしないで下さい。怖いです。」


「うむ…今は精力も法力も…底をついておる。…台所から…煮干しと般若湯(日本酒)を…持ってきてくれ…」


蓮は慌てて台所へと走り戸棚から煮干しを、冷蔵庫から日本酒の瓶をとって来る。そした和尚の頭骨を方手でそっと支え、まずは煮干し一掴みを口元に運ぶ。


「うむ、そうじゃ……」


煮干しは吸い込まれるように和尚の口の中へ消えていく。すると和尚の骨が背骨からじわじわと再生し始めた


「ふう…カルシウムが染み渡るわい」


続いて般若湯の瓶を蓮が持ち上げ、頭骨の口元にそっと注ぐ。


「うーむ、煩悩が蘇るようじゃ」

和尚の眼窩の奥の光が強まり、背骨の間から青白いオーラ立ち上りる。同時に肋骨と右手の骨が生え始めた。


「少々白い物を出し過ぎたようじゃが、これもわしの煩悩の証……!」


蓮:「その白い物って、カルシウムじゃなくて何か別のだよな!」


「はっはっは」


和尚は生えたばかりの腕で自分の頭骨をパシリと叩きカラカラと笑うのだった。


◆◆◆


そして週末開け煩悩寺に出勤した蓮が見たのは、境内の片隅に建立された高さ10m、底辺長15m、神殿風出入り口付きの小ピラミッドだった。

入口の両脇には高さ1mほどのスフィンクス像もある


和尚「クレオパトラはあそこに住み着くそうじゃ」


蓮「寺の境内にピラミッドとか宗教カオスすぎだろ!」

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