第11話 図書館戦闘

私たちは、目的地であるスタディアの町にたどり着いた。

ここには大きな図書館があり、そこでなら精者たちのことが何か分かるのでは、と思ったからだ。


しかし、図書館を訪れると。


<休館中>


と書かれていた。

ジャンヌさんが管理人室の人に訊ねる。

「どうしたんですの?」

「あぁ! あなた様たちが伝説の! 館長がお待ちです。どうぞこちらからお入りください」

私たちは職員専用口から館内に入った。


すると、中年の男性がいた。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/hm-ciao/news/16818792435777029926


「ワシが館長のライオですじゃ。伝説の精者の皆様、ようこそ」

「ここにも伝説があるんですの?」

「うむ。この図書館に長年納められていた本に書かれていますじゃ。


<精なる学者の元に精者たちが集いしとき、魔王をうち滅ぼさん>


ですじゃ」

「精なる学者、アルか?」

「ワシのことですじゃ。伝説を知り、待ち続けて45年。本当にやってくるか心配でしたじゃ。今では立派な高齢者ですじゃ。ストレスで太り、髪の毛も白く薄くなってしまったですじゃ」

「それは御愁傷様ですわ」

「というか、ヒロト以外にも男の精者がいたのか。てっきり女だけかと」

「はいですじゃ」


「それで、なぜ休館中アルか?」

「この図書館の奥に、魔物が現れましたじゃ。しかしワシ1人では討伐できぬですじゃ。よって、皆様をお待ちしていたですじゃ」

「なぜ図書館に魔物が?ですわ」

「どうらや、読まれたくない文献があるようですじゃ。おそらく重要なことが書かれているですじゃ」

私は訊ねる。

「25年もいたのに、その文献に気づかなかったんですか?」

「ゲホ! ゲホ! 持病の腰痛が!」

なんで腰痛で咳をしてるのよ。

「まぁ、とっとと魔物を倒しましょうですわ」

そのとき。


<戦うメンバーを4人選んでください>


私は言う。

「そうか、図書館の中には馬車は入れないから」

「1人、ここで待機アルか」

「ライオさんは、図書館内の案内で必要ですわ」

「戦力的に、待機はナルマだろ」

リッカさんは言う。

それだと助かる。

「なに言ってるるネ。今、精力を使えるのはリッカとナルマだけネ」

うう。正論。

「山脈での戦いでは私、休んでましたし、今回は働きましてよ」

「いや、斬撃系の2人では敵との相性が悪いとき困るネ。私が行くネ」

「確かにですわ。任せましたわ」

すると、ライオさんは言った。

「うーむ。金髪お嬢様も捨てがたい…」

「え?」

「ゲホ! ゲホ!」

「さあ、行くネ」

こうして、ナルマこと私、ジャンヌさん、ヤオさん、ライオさんの4人は、図書館の奥に進んだ。


「おりゃあ!」

「たぁ!」

リッカさんとヤオさんが、館内に巣くうモンスターを倒していく。

私は2人の指示に従って毎ターン防御。

ライオさんも防御している。

「あの、ライオさんは戦わないんですか?」

「ワシは学者ですじゃ。戦闘は専門外ですじゃ」

まぁ、私も人のことは言えないけれど。


リッカさんとヤオさんは、次々とモンスターを倒し進んでいく。

しかし、さすがに息が切れ、服もボロボロになっている。


「はあ、はあ、ものすごい広さだな、この図書館」

「はあ、はあ、いや、明らかに外から見た広さと違うネ」

「はあ、はあ、この図書館は、可能な限り蔵書できるように、空間拡張魔法が張られているですじゃ、」

なんで、ライオさんまで息を切らしてるのよ。

「ゲホゲホ! 中年太りにはちょっとした運動もツラいですじゃ」

声に出てたらしい。


と、そのとき。

奥の本棚なら、本の形をしたモンスターが現れた、

<ブッカー>と書いてある。

「む! 親玉はコイツですじゃ!」

「ようやくお出ましかよ」

「とっとと片付けるネ!」

2人はブッカーに突撃していく。

しかし、ブッカーの本から、紙のページが手裏剣のように放たれた。


ザシュザシュザシュ!


「くぅ! 飛び道具系アルか!」

2人は飛び道具は持っていない。

でも、私なら。

「バカ! やめっ!」

「やあ!」

私はカバンから火炎瓶を取り出し、ブッカーに投げつける。

本なら炎属性が有効なはずだ。


「グギャアアア!」

炎が燃え上がる。


<ブッカーを倒した!>


「やった!」

「やったじゃないネ!」

「こんな本だらけの中で火を使うなんて、なに考えてんだ!」


周囲は火の海だった。


「ちぃ! 服に火が燃え移りやがった!」

「私もネ!」

「はうぅ、私も」

「それは自業自得ネ!」

みんなの服がさらにボロボロになる。

「おい! 鎮火するようなアイテムは持ってねえのかよ!」

「こ、これなら」

私はポーションのビンを取り出してリッカさんに見せる。

「くそっ! それだけじゃあどうにもならねえな! スペルムブレイズでもこれはどうしようもねぇしよ!」


「ライオさん、何か方法はないアルか!?」

「はあ、はあ、はあ、はあ」

ライオさんは、さっきより息を切らしている。

そう言えば、私も息が苦しいような。

ひょっとして、これは。

「はあ、はあ、た、大変です! 燃焼は酸素が燃えて、二酸化炭素になります。このままだと私たち、燃えるより先に窒息してしまいます」

「はあ、はあ、なんだって!?」

「はあ、はあ、こうなったら、天井をぶち破って上から出るしかないネ!」

「はあ、はあ、どうやってだよ! あの高さまでは上がれねぇぞ!」

「はあ、はあ、ヒロトがいたらフライダーで上がれるアルけど」

すると、ライオさんはさらに激しく息を切らした。

かと思うと。


「はあ! はあ! はあ! はあ! も、もう、しんぼうたまらーん!!」


え?


ライオさんはそう叫ぶと、私たちのほうに飛びついて来た。

えっと、息を切らしていたのは、最初から服が破れてるリッカさんやヤオさんを見て、興奮してたせい?

「むふぅー! 女の子がいっぱいー!」

「お、おい!」

「な、なにするネ!?」

「へ、ヘンタイー!」


そのとき。


キュイイイン


私たちに白い光が発生し、ライオさんに移っていく。

すると、空中から白い本が飛び出した。

ライオさんは立ち上がり、その本を手に取ると、ページをめくる。

そして読み上げる。

「精書スペルムビブリオ、第14章。かつてこの大地は、乾ききっていた。しかしあるとき、天空が暗くなったかと思うと、恵みの雨が降り注いだ」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/hm-ciao/news/16818792435782560195


その瞬間。


ザァァァ!


図書館内に雲が現れ、雨が降り、炎を消していく。


シュウウウ


白い本が消滅すると、ライオさんは本棚を探り、1冊の茶色い本を手に取った。

「おそらく、魔物が守っていたのはこの書物ですじゃ。ふぅ。これで一件落着ですじゃ」

ライオさんは私たちのほうを見る。


「ん?ですじゃ?」


「てめえ、覚悟はできてんだろうな!?」

「なにが世界を救う精者アルか!」

「加齢臭が体に着いちゃったぁ!」


「うらぁ!」

リッカさんのアッパーカット。

「やぁ!」

ヤオさんが蹴り上げる。

「飛んでけぇ!」

私は爆弾を投げつける。


「ですじゃあぁぁ!」


ライオさんは天井をぶち抜いて彼方へ消えていった。

すると、図書館が収縮していく。

空間拡張魔法を張っていたのはライオさんだったのだ。

こんな魔法を使えるなら本当は戦えたんだろうけど、きっとリッカさんやヤオさんを見るのに夢中だったのだ。


足元には、さっきライオさんが手にとった茶色い本が落ちていた。

リッカさんが拾い上げる。

「次の目的地についての情報が、これに書いてあるんだろうな」

「あんなエロオヤジより、ヒロトの方が百億万倍マシネ。次に会ったら、少しは優しくしてやることにするネ」


図書館のホールに戻ると、ジャンヌさんが待っていた。

「大変な炎でしたわね。無事で何よりですわ」

すると、管理人が訊ねる。

「えっと、館長は?」

「中のモンスターにやられちまった。この炎じゃ、骨も残ってねぇだろうな」

「惜しい人を亡くしたネ」

「ということは、あの人が精者っていうのはデマでしたのね。自業自得ですわ」

「そうですか。それは良かった。これで女性職員も安心して働けます」

管理人さんは、嬉しそうに言った。

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