異世界料理アカデミー ~掃除人の俺、謎スキル「異次元デパ地下」で料理革命~
武野あんず
第1話 掃除人の俺は、最強料理人の転生者!
「貴様らぁっ! 何だ、この成績は! 全員、パンを焼いたかまどにぶち込むぞ!」
ボルダー教頭の怒鳴り声が雷鳴のごとく部屋に
「マーベリック杯料理選手権での予選通過者は、十名中二名だけ……! 料理は
料理に例えてわめき散らすのが、教頭の
ここはランゼルフ王国最大の料理学校「ランゼルフ料理アカデミー」の教頭室。
整列させられた十名の生徒たちは、肩をすくめて縮こまっている。
「残念ながらここは最大最高の料理アカデミーだ……」
俺はかわいそうな生徒たちを尻目に、壁の乾拭きをしながら静かにつぶやいた。
俺の名はリクト・ロジェ。16歳。単なるこの学校の掃除人だ。
「まあ……甘くないぜ」
俺は料理人になることが夢だった。
「ジェニファー! 貴様の持っている包丁と鍋は泥でできているのか! 一年生からやり直せっ」
「そ、そんな! い、一年生?」
教頭から非情な宣告を受けた中貴族の女生徒は、膝から崩れ落ちた。
「おい、お前。ローファー!」
丸眼鏡をかけた大貴族の少年料理人が、飛び上がるようにして背筋を伸ばした。
「貴様は予選で最下位だったそうだな。『食材で審査員の舌を殺せ!』といっただろう! お前はここの
「そ、そんな! 僕は父に期待されているんです。ど、どうか……」
「私に口答えするのか?」
ボルダー教頭はビール
俺は……
くそ、忘れろ! 俺は料理人になる夢は捨てたはずだ!
「ローファー! お前の頭は腐ったハチミツでできているのか? 勝てなければ、この学校から生ゴミのように叩き出すだけだ!」
「ちょっと待ってくださいよ、教頭先生」
十名の生徒は目を丸くした。
俺がボルダー教頭とローファーの間に入ったからだ。
「リクト! 貴様……!」
ボルダー教頭のこめかみには青筋が立っている。
俺はさすがに、この暴力行為は見て見ぬフリはできなかった。
「料理は心で伝わる。そんな
「こ、この掃除人がっ!『舌が錆びる』だと? 私に意見をするんじゃない!」
俺の
ボルダー教頭が俺の顎を右拳で殴りつけたのだ。
俺は床に倒れ込んだが、生徒の一人が俺の顔を冷たい靴底で踏みつけた!
「おい~! リクト。お前、掃除人の分際でパパに逆らうなんて、肝が
俺の顔を踏みつけたのは、ボルダー教頭の息子、ラーパス・ボルダーだ。
こいつはこないだの料理選手権で予選通過した。
だが、父親のボルダー教頭の権威で勝ち得たものだというのは公然の秘密だ。
「りょ、料理の腕は、努力……み、磨き上げた腕で決まるんだ!」
俺は言い返したが、いけねえ……また料理のことを考えちまった。
すると……!
「二人ともやめて! ここは料理学校よ!」
赤毛の少女がラーパスを俺から引き離した。
アイリーン・ウィントールだ。
この学校で最も期待されている秀才で、しかもかなりの美少女だった。
「あなた、大丈夫?」
アイリーンは俺を助け起こしてくれたが、ラーパスはアイリーンを無理矢理抱き寄せた。
「アイリーン、君は俺と結婚して大きなレストランを開く予定じゃないか。こんな奴隷はほっとけよ」
「気安く触らないで! それは親が決めたことでしょう!」
アイリーンはラーパスの手を払った。
「さあ腐った野菜ども、教室に戻れ!」
ボルダー教頭の
「今度の世界選手権までに死ぬ気で勉強しろ! 料理選手権は命がけの戦場……。食材と調理器具という兵器で戦え! 俺に恥をかかせるな!」
生徒たちは教頭室からネズミのように逃げ出した。俺は口笛を吹きつつ、壁の乾拭きを再開した。
◇ ◇ ◇
「ね、ねえ……リクト君」
俺が教頭室の掃除を終え廊下の掃除を始めていると、アイリーンが話しかけてきた。
「あなた、もしかして料理ができるんじゃない?」
「……さあ? 知らないね。俺の心配は無用だからあっちに行けよ」
「なっ、何よ、その言い方! べ、別に、あなたを心配してるわけじゃないんだからねっ!」
廊下を歩く生徒たちの冷たい視線が、俺とアイリーンに突き刺さる。
俺の作業着姿はみずぼらしく、王族や貴族の子どもたちにはお気に召さないらしい。
アイリーン、俺に近づくとあんたまで変な目で見られるぜ?
「でも……ローファーはクラスメートなの。私は学級委員長だから……その、ありがとう」
「あ、ああ」
「――でもあなた、本当は料理人になりたいんじゃないの?」
「えっ? そ、それは……」
俺は戸惑った。
な、何でこの女は俺の心が見抜けるんだ?
「私は真実の料理を目指している料理人をたくさん見てきたわ。あなたの雑巾の拭き方、ホウキではく姿……料理人そのものだったわよ」
俺が料理人そのものだって?
い、いや、夢なんてとうに捨てたんだった。
「へっ、雑巾とホウキで料理人だ? それで何が分かるんだ。金持ち料理学校のお嬢さんよ」
俺は奴隷民だ。
この国では料理人には絶対になれない。
「か、金持ち料理学校? く、口の利き方がなっていないんじゃなくて?」
アイリーンはぷいと顔をそむけたが、顔は真剣そのものだった。
まるで新しい
「私の直観は必ず当たるわ! ――でも、二度と心配してやらないんだからっ!」
アイリーンは頭から怒りの湯気を噴き出し、
何だ、やっぱり俺を心配してたのか。
俺に「料理の才能」ねえ……。
だが――アイリーンの直観が真実だったとは、このとき思いもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。