5-5 六つの銀柱、二刀流
◇◆◇◆
店長とヘビの戦闘が始まり、五分ほど経過した頃。
ヘビは自身も剣を振りつつ、剣の柄から伸ばした液体操作金属でも店長へ斬撃を浴びせていた。通常の剣撃に加えて、変幻自在の刃による斬撃。始めこそ店長は防戦一方だったが、三分経過したあたりで慣れてきた。
「これぞ我が奥儀「
「ワ―、カッコイイ。……よっと!」
再び背後から液体操作金属による斬撃が飛んできたが、それを難なく避けた店長。直後、店長は地面を蹴り上げ、水面を滑空するように飛び攻撃を仕掛けるが、ヘビもこれを剣で受け止める。
再び店長の足元から液体操作金属が襲いかかるが、やはり店長はこれを回避。
――というのを数分間繰り返している。
いい加減イライラしてきた店長はヘビから少し距離をとり、小休憩。
「あー、もー、ダルいな、そのサイレント?スネイク?っての」
「違う! 今の真下からの攻撃は「
「……技名はどっちでもいいがな。ダルいな、それ」
ふぅ、と溜め息をつく店長。ヘビもつられて剣の構えを少し緩めた――瞬間。店長はエプロンのポケットからナイフを取り出し、ヘビに投げつけた。
構えを解いたヘビには受け止められない。と思ったが、ヘビの足元から液体操作金属が渦巻き状に巻き上がり、盾となってナイフを防いだ。
「クククク、使用者の危険を察知し防御する、自動防御プログラム『
「プログラムによる自動動作か。そんな機能もあるのか……面倒くせぇな……」
動作にいちいち名前を付けているような奴に手こずっている事実に少し情けなく思ったが、実際、ヘビはそれなりの実力者のようだ。数年前に店から叩き出した時とは比べものにならない。
「上っ面だけの中二病野郎かと思ったが、中々どうして強いじゃねぇか。そんだけ実力あれば、直接店まで殴り込んでくれば良かったんじゃねぇのか?」
店長がそういうと、暗がりで少し見えづらいがヘビの表情が少し緩んだように見えた。が、すぐに口を締め、苦悶の表情で笑みを浮かべる。
「ぬかせ。俺にとって有利なこの
なるほど、しかしその行動に納得いかないところがある。
「借りたのは狸だけじゃないだろ。あんな何も知らない小娘まで利用しやがって。あいつを使ってあわよくば俺を暗殺させようとしたらしいが……仮に暗殺が成功していたら、お前はそれで満足したのか?」
「小娘……? あぁ、あの兎とかいう奴か。ふん、暗殺も命じはしたが、そもそも期待していない!」
ヘビは苛つくように足元の水を斬りつけ、水飛沫を上げる。
「俺はな、店長! あの盤堅街とかいう街も、街に住む者も大嫌いなのだ! 貴様という世界最強の男を縛るだけ縛って、何もできず、何もせず惰性で生きる堕落者達! 見ているだけでも反吐が出る! あんな街の住人は一人残らず抹殺し、貴様は俺と共に世界統一を目指すべきだったのだ!」
……リュウもそうだが、変な男からばかり俺はモテるみたいだな、と店長は頭が痛くなった。
ヘビは続ける。
「だから、あの小娘には無理難題の
……。ん? どういう意味だ?
回りくどい言い回しが多いヘビだが、今の言葉は理解が追いつかなかった。そんな店長を察してかヘビは言う。
「なんだ、あの小娘から聞いていなかったのか? 先ほども見せただろう、この液体操作金属にはプログラムも可能。使用者である俺から離れると精度は落ちるが、決められた条件を満たせば、決められた動作をするのだ」
……まだ話が見えてこない。
店長の困惑する姿にヘビは少し喜んだのか愉悦の表情で続ける。
「小娘には
ふはははは、と高笑いするヘビ。
気掛かりだったことが色々と理解できた。
兎がキラー鳩に襲われた時、盗賊達が「何か発砲した」と言っていたのは
そして、矢部医師の居場所がバレた理由。発信機の類があるのかと思ったが、以前兎の身ぐるみ引っ剥がした際にはそんなもの所持していなかった。発信機は持ち物ではなく、身体の中――脳内に埋め込まれていたのだから、見つけられるわけもなかった。
そして、兎がわざわざ狸座経由で店に潜り込んだ理由。それはスパイという免罪符で労働を免除するため。他の兄弟にしわ寄せが来ないようにするためだろう。自分の身を犠牲に兄弟への負担と、母親の命を救おうとしたのだろう。
「自己犠牲精神、ここに極まれり。ってか」
ヘビは店長の言葉の意味が理解できず首を傾げる。店長は「こっちの話だ」と説明を割愛。代わりに聞いた。
「ところで「俺の暗殺ができたかどうか」はどうやって判断するんだ? 兎の体内にある液体操作金属が、俺の心肺が停止したかなんて、どう調べるんだ?」
「クククク、そのとおり。貴様の実際の生死が条件ではない。あくまで、あの小娘の
なるほどと店長は頷く。最後にもう一つ聞く。
「ちなみに、その液体操作金属があると、狙撃能力が向上する……なんてことあるのか?」
「……? そんな
「そうか」と店長は頷く。ならば兎の狙撃の腕は天性のものかと少しホッとした。兎の狙撃技術は、今後も必要になるかもしれないので。ヘビはそんなこと知る由もないだろうが。
「えらくウチのバイトを低く見積もってるみたいだが、その組み込んだプログラムとやらの解除方法は、俺が勝ったら教えてくれるんだろうな?」
店長は両手で構えていた刀を左手のみに持ち替え、背中のチェーンソーを右手に持ち構える。超音波ブレードの日本刀、小型のチェーンソーの二刀流へと構えを変えた。
その様子にヘビは少し身震いすると微笑んだ。
「いいだろう、貴様が本気を出してくれるなら、喜んで教えよう!」
ヘビは剣を身構える。その背後に一本、二本……合計六本の銀色の柱が形成された。今までは一本分の液体操作金属で戦っていたらしい。どうやら本気を出していなかったのは店長だけではなかったようだ。
「さぁ、店長! 第二ラウンドだ!」
輪舞曲と言ったり、ラウンドと言ったり、統一しておいてもらいたいものだ。
店長は溜め息混じりで二つの得物を強く握りしめる。
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