第23話

今回は――


上田 海と紺野 あいが、それぞれ千紘のZINE『うしろ姿の返事』に添えて残した、

**読書カード(読者メモ)**をご紹介します。


ひとつぶの棚にそっと差し込まれた、言葉への返事たち。

誰にも見せるためじゃなく、でも誰かが読むかもしれないという予感のもとに書かれた、小さな紙です。



📖【読書カード1】


タイトル:読んだ時間ごと、包んでくれる言葉

書き手:上田 海


初めて読んだのは、雨が降った夜でした。

静かなページをめくるたび、自分の部屋の音がやわらかくなっていく気がして、

何度か途中で閉じて、湯を沸かして、また読みました。


千紘さんの言葉は、読み進めるより、滞在するための場所のようです。

書かれたことよりも、「まだ言葉になっていない誰かの気持ち」がそこにいる気がしました。


絵本を描く身としては、いつかこの本に絵を添えてみたいと思ってしまいました。

でもたぶん、絵をつけなくても、この本には十分な余白がありますね。


最後の一篇「隣の席にいる静けさ」が特に好きです。

誰にも呼ばれていない名前を、心の中でそっと読んでくれたような、そんな感覚になりました。



📖【読書カード2】


タイトル:ことばがくれる沈黙の居場所

書き手:紺野 あい


書かれた文章を読んで、何かを思い出したというより、

「この感じを、私はまだ忘れずにいたんだな」と気づくような読書体験でした。


自分の詩集がきっかけで、あなたが書き始めたと知ったとき、

正直、少し怖くなったのです。

何かを与えた側として見られることが、今もあまり得意ではないので……。


でもこの本を読んで、**“言葉は、受け取った人が育てる”**ということを教えてもらいました。

もう、発信したあとにまで責任を持たなくていいのだと。


そして今日、こうして「返事」をもらえたことが、

たぶん私にとって、いちばんあたたかい“詩の時間”でした。



読者カードは、ことばのもう一枚の裏面。

作者が書き残さなかった行間を、

読んだ人が静かに拾いなおす場所。


千紘のZINEは、ページ数こそ少ないけれど、

それぞれの心の中に、確かな「続き」を残していたようです。

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