48話 秘密の治療

ハンナとサーブルは怪我をした一人一人の手当てをした。アンベスの怪我が一番酷く、もう虫の息だった。それでも二人は手を重ね一生懸命に手当てをした。


「アンベス?気がついた?」

ハンナがアンベスの目がピクッと動いた事に気付いた。

「ハンナ、君が助けてくれたのか?」

「私とサーブルで助けたの。まだ動かないでもう少し手当てをするから。」

そう言ってハンナはアンベスの治療を続けた。

「そうか。こんな私を助けてくれてありがとう。君に酷い事をしてしまったのに。申し訳ない。」

アンベスの頬には涙が流れていた。

「いいえ。私も嫌な態度を取りました。申し訳ございません。」

ハンナはニコリと笑った。

「皇帝に意見出来なくて君に八つ当たりをしていたのだ。今思うと本当に恥ずかしい事をした。」

「そうやって自分で気付くという事は素晴らしい事だと私は思います。」

「そうだな。これからはもっと成長できるように頑張るよ。君は私と離縁して自由に生きてくれ。本当に申し訳なかった。」

「アンベス。ありがとうございます。」

「あ、それと前の姿の時も顔はそれなりに可愛かったぞ。今は美人だが私はもっと色気がムンムンしてる方が好きだ。」

ハンナは何の意味も持たない一言多いアホなアンベスの治療をニッコリと笑いながら続けていたが、静かに怒っていた。


アンベスの治療が終わり、それぞれの帰るべき所に戻って行った。

ハンナはこれでやっと両親の元に帰れると思いで涙が溢れた。


そしてハンナは共に戦った皆に別れを告げ、両親と生まれ育った村に戻った。


エフェとロスタルは老いの村の近くに住み始めた。離れていた時間を埋めるかの様にずっと二人で過ごしている。リテとモンテスは二人で老いの村に教会を開き毎日村人の為に神に祈りを捧げていた。老いの村の村長達はまた元の静かな生活に戻った。リテやエフェが居る事で穏やかで優しい日々を過ごしている。



エクラはエトワールと城に戻り、エトワールが皇帝、エクラは皇后になった。二人は国民からはとても愛されている。アンベスはそんな二人の元で真面目に働いていた。

「彷徨いの谷から戻ってきたアンベス皇子が何だか、頭が良くなっている。」

とエクラが不思議がっていた。


実はアンベスをハンナが治療した時、アンベスのアホが治るようにと願いを込めたのはハンナだけの秘密だ。







「サーブル先生!剣の使い方教えて下さい!」

「よしっ!いいぞ。かかって来い!」

勢いよく走り出した子供は思いっ切り転んだ。

「うわわわあああん!」

「大丈夫か?見せてみろ。」

サーブルはそう言って擦りむいた子供の膝小僧に手をかざした。

「うわ!もう痛くない!」

子供が驚いた。

「よしっ。今度は気を付けてかかって来い!」

「はいっ!」

「サーブルが剣術を教えると子供が上達するのが早いなあ。」

「そうですね。」


エトワールとエクラが話をしていた。


サーブルは皇居の庭師兼、騎士団への入団希望の子供達に剣術を教える先生となって過ごしている。




「ハンナ。次の患者さんがお待ちよ。」

ハンナの母が小さな子供を連れて来た。

「ハンナ先生。朝からポンポン痛いの。」

「先生、この子、凄く痛がっていたので心配で。」

その子の母親言った。

「分かったわ。じゃあ、少しお腹見せてね。」

ハンナはそう言って子供のお腹に手をかざした。

「わあ!もう治った!」

子供は元気に叫んだ。

「ハンナ先生!ありがとうございます。」


ハンナは力を生かし診療所を営んでいた。


「いやあ、あのハンナちゃんがこんな綺麗で優秀なお医者さんになるなんて本当に素晴らしい。」

「もう、この村にハンナさんが居ないと大変な事になるわね。」


村人はいつもハンナに感謝していた。ハンナ自身も今の生活がとても気に入っていた。


「もうすぐで騎士団の遠征の時期ですね。今年はもう行かなくても良さそうね。」

ハンナが父に話しかけた。


「そうだな。サーブルもだいぶ治癒魔法を使える様になったし、エトワール皇帝も、立派になられた。もう今年はハンナの力を借りなくてもいいだろう。」


ハンナは思い切り背伸びをして空を見上げた。


「ハンナ。好待遇の宮廷医の話を受けてもいいんだぞ。父さんや母さんの事が心配でここに残って居るなら自分の思うようにしなさい。」


ハンナの父はコーヒーを飲みながら尋ねた。


「何を言うんですか!私はここでの暮らしが良くて宮廷医はお断りしたんです。サーブルも時間が経つに連れて治癒の力は強くなっているので、もう私の力を必要とはしなくなるでしょう。」

ハンナはニッコリと笑った。

「そうか。ハンナが寂しいのではないかと思って…。」

父はハンナの顔を見て何も言うのは止めようと思った。


「城の皆にはまたいつでも会えます。私はこの生まれ育った田舎でこの仕事をするのが生きがいです!」



そのハンナの生き生きとした顔を見て、本当の花嫁姿を見れる日はまだまだ来ない事を父は確信した。

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怪しい政略結婚で命の危険を感じたので田舎に帰らせて頂きます! みとしろ @itinoi

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