第46話 現れた不死鳥

「早く呼べ。」

皇帝のその言葉を合図に、ハンナは彷徨いの谷の見える所に行き両手を上げ不死鳥を呼んだ。

「お願い!紫の不死鳥よ!ここに現れて!」

ハンナの声は谷の底にまで届きそっうだた。だが周りはシーンと静まり返っている。

「無理かな……どうすればいいのか分からない…。」

ハンナは弱気になった。


「ケーン」

遠くから微かに聞こえた気がした。

「不死鳥?」

ハンナが小さく呟いた。


「ケー―――――ン」

その声はハッキリと聞こえた。遠くから羽を羽ばたかせてる音も聞こえて来る。


「おおお。ハンナでかしたぞ。」

紫色の美しく大きな不死鳥が遠くから飛んで来るのが見えた。


「もう、これで皆も不死鳥もすぐに解放してあげて。」

ハンナが皇帝に言った。その時紫の不死鳥がハンナのすぐ隣に来た。

「おおお。なんと素晴らしい。」

皇帝はそう言いながら不死鳥に近づいて来た。

「不死鳥に酷い事したら承知しないわよ!」

ハンナが不死鳥を庇う仕草をした。

「酷い事?そんな事しないさ。」

皇帝はそう言いながら近寄って来た。そして不死鳥に手を伸ばした。

「ギャアギャア!!!」

不死鳥が急に暴れ出した。皇帝は魔法を使って不死鳥を捕まえようとしていたのだ。

「止めて!この罰当たり!」

ハンナは必死に不死鳥を守ろうとした。

「ギャー―!」

不死鳥は悲鳴の様な鳴き声を上げるとどこかへ飛び立った。

「皇帝はどこまでも最低なのですね!」

ハンナは皇帝を思い切り睨みつけた。

「おい。他の男共は皆、死にかけで役に立たない。ハンナ、大人しくいい子にしていた方が身の為だぞ。もう一度呼び戻せ。」

そう言って皇帝はハンナの腕を折れそうな程に強く掴んだ。

「うわああああああ!!!!」

急に叫び出したのはアンベスだった。

「皇帝!もう、私は貴方の言いなりはまっぴらだ!!」

アンベスはそう叫びながら剣を腰から抜き皇帝に向かって行った。

「馬鹿な奴だ。」

皇帝はアンベスに向かい人差し指でピンっと跳ねのける仕草をした。

「ひーーー!」

アンベスは情けない声を出しながら吹き飛んだ。

「アンベスよ。お前は本当に何も分かってない。お前は私が居なければただの無能な人間だ。黙って私のお飾りの人形にでもなっていればよかったのに頭の悪い奴だ。このクソ野郎!」

皇帝はそう叫ぶとアンベスが落とした剣を魔法で持ち上げアンベスに向かって投げた。その剣はアンベスの腹に突き刺さった。

「アンベス!!」

ハンナは顔が青ざめた。本当の息子にもこんな残酷な事をするなんて信じられなかった。

「ハンナ。とりあえず帰るぞ。」

皇帝は何事もなかったかのように振る舞いハンナの腕を引いた。

「いや!離して!」

ハンナは体をよじらせ嫌がった。その瞬間に怪我をして血だらけのサーブルが皇帝の前に立ち剣を振りかざした。その剣は皇帝の胸元をザックリと斬った。

「ハンナお嬢様!逃げて下さい!」

サーブルはハンナを逃がそうと自分が囮になり皇帝に立ち向かった。

「サーブル!嫌っ!」

ハンナはサーブルが自分が犠牲になろうとしている事に気付いた。

「鬱陶しいんだよ!!!」

皇帝は怒りで化け物の様になってしまった。

「どいつもこいつも鬱陶しい!いっぺんに殺してやる!」

その叫び声はまるで獣の雄叫びだった。

皇帝の伸びた鋭い爪でサーブルは斬られた。

「グッ……」

その一撃はサーブルにとって大打撃だった。皇帝はサーブルの頭を掴みブンっと彷徨いの谷に放り投げた。

「サーブル!!!」

ハンナはサーブルの後を追い彷徨いの谷に落ちて行った。

「畜生!あの女め!」

皇帝は思いも寄らない出来事に腹が立った。


怪物の鳴き声が聞こえて来たらあの二人は食べられてしまうと思った瞬間、怪物とは違う鳴き声が聞こえて来た。

「何だ?」

皇帝が彷徨いの谷を覗き込んだ瞬間、勢いよく何かが飛び出して来た。

「あれはっ!?」

さすがの皇帝も動揺した。彷徨いの谷から上がって来たのはハンナとサーブルを咥えた紫の不死鳥だった。不死鳥に触れられたサーブルは気は失っていたが怪我がほとんど治っていた。

不死鳥は二人を静かに地面に置いた。


「おい、ハンナ。その不死鳥をこちらに連れて来い。」

皇帝はニヤついていた。

「断ったらロスタル、モンテス、エトワールついでにアンベスにもとどめを刺すからな。」

皇帝はとことん卑怯だった。

「なんてことを!」

ハンナがどうする事も出来ずにいると、不死鳥がその会話を理解したかの様に皇帝の方に歩き始めた。

「ほう。お前は中々、聞き訳がいいんだな。」

不死鳥はゆっくりと皇帝の元に近づいた。そして皇帝は不死鳥に手を伸ばし触れようとしたその時だった。



「ケーーーーーーーーン!!!!!!」

皇帝に向かって怒鳴るかの様に不死鳥は叫んだ。

紫の不死鳥のその声は今までの鳴き声の何倍、何十倍の大きさだ。鼓膜が破れそうなその鳴き声の大きさでサーブルが意識を取り戻した。


その不死鳥の鳴き声は大きな振動となり、地響きが鳴り響いた。

風圧で皇帝は紙切れの様に飛ばされた。

「うわ!!畜生!!落ちるーーー!!」

不意打ちの出来事に皇帝はどうする事も出来なかった。情けない声を出し、深い深い彷徨いの谷に皇帝は落ちて行った。

「ぎゃああああああああああああ」

皇帝の叫び声が谷底の方から聞こえた様な気がすると、怪物たちの不気味で大きな鳴き声が聞こえて来た。ハンナは思わず耳を塞いだ。


そして彷徨いの谷はまた静かになった。

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