第23話 リテとの対面
「あいたたた…。二人とも大丈夫?」
ハンナは物置小屋のガラクタがクッションになり怪我もなく無事だった。
「私は大丈夫です。」
サーブルは身体能力が高いのできちんと着地していた。
「助けてくださーい。」
エクラは小麦粉の袋の隙間にすっぽりハマって身動きが取れなかった。サーブルとハンナはエクラを助けると物置の入口に向かった。
「ここは城の離れにある使われていない物置ですね。」
ハンナは辺りを見回した。
「そうみたいですね。ここら辺は外部からも入りにくいので兵士の見張りは手薄になりますが、リテ様とエトワール皇子が居る地下牢には少し距離があります。」
サーブルは小さい小窓から外の様子を確認していた。
「でも、早く行かなければ皇帝達が戻って来ます。それにアンベス皇子は城に居るみたいなので見つかると面倒な事になりますわ。」
エクラはリテとエトワールが心配で仕方ないみたいだ。
「そうですね。では地下牢に参りましょう。抜け道を知ってますので私が先に行きます。ハンナお嬢様達は後に付いて来た下さい。」
そういうとサーブルが先に出て安全かを確認してくれた。
「何だかサーブルって凄く頼りになるのね。」
ハンナがポツリと呟いた。エクラもうんうんと深く頷いた。
「この先は兵士が居ます。どうしましょうか?」
地下牢の入口辺りまではすんなり来れたのだが、流石に皇族しか入れない地下牢は厳重な警備だった。
「ねえ、皇族しか入れないのなら私が行きます。一応、アンベス皇子の妃なので。」
ハンナの思いもよらない提案にサーブルとエクラは驚いた。
「まあ、ハンナお嬢様がよければそれが一番手っ取り早いですね。」
「この格好で大丈夫かしら?」
ハンナが着ているのは村長の家で貸してもらった動きやすい服装だ。
「大丈夫です。ハンナお嬢様は一度、剣術の練習にも出ておられるのでそんなに違和感はありません。」
サーブルは自信たっぷりに答えた。
「お嬢様!剣術の練習が思いもよらない形で役に立ちましたね!騎士団との練習なんて心配でしたが出られてて良かったです!」
エクラがハンナの手を取った。
「そうね。まさかこんな風に役に立つとは思わなかったわ。」
ハンナは少し苦笑いをした。
「では、行って来るわ。リテ様もエトワール皇子もかなり弱っていると思うの。その時はこの不死鳥の力を使い助けたいと思うわ。」
ハンナがエクラの手を握り返した。
「ハンナお嬢様。お願いします。どうか二人をお助け下さい。」
エクラはもう今にも泣き出してしまいそうだ。
「エクラさんは私と一緒に待機しておきましょう。」
「そうね。二人で待ってて。場所を決めて待ち合わせしましょう。サーブル、この城から出た時の鍵はまだ持っている?」
「はい。ここにあります。では、裏門の近くで待ち合わせしましょう。」
サーブルは腰につけた鍵を見せてくれた。
「ハンナお嬢様。どうかお気を付けください。」
エクラはとても不安げな顔をしている。
「大丈夫よ。上手く行く事を想像しましょ!そうするときっと上手くいくから。」
ハンナが笑うとエクラも少しだけ不安が払拭された。
「ではそろそろ行きましょう。後、一つよろしいでしょうか?私の記憶が確かなら、リテ様が居る牢のどこかに抜け道があると聞いた事があります。探してみてください。」
サーブルはそう言って周りを確認するとハンナを誘導してくれた。
ハンナは二人と別れて地下牢の方へと歩いて行った。牢の入口は薄暗くジメジメしていて気味が悪かった。
「私はアンベス皇子の妻ハンナです。こちらに居るリテ様に会いに来ました。通してくれますか?」
ハンナは門番に尋ねた。門番は目の前にこの世の者とは思えない程の美しい女性に見とれてしまった。
「ハンナ妃ですか…、はい、どうぞ。」
思っていたよりすんなりと入れたことに驚いた。ハンナはこんな扱いに慣れてないので戸惑ってしまう。
「きっとお姉様達はいつもこんな扱いを受けていたのね。」
なんて考えながら歩いて行くと一段と厳重な扉の牢があった。そこの見張りの兵士は手強そうだ。
「アンベス皇子の妻のハンナです。リテ様に会いに来ました。通して下さい。」
ハンナがは冷静に落ち着いて伝えた。屈強な兵士がハンナをギロリと睨みつける。その時間が結構長かったのでハンナはダメだったら、村長から貰ったペンダントで瞬間移動しようかとも考えた。
「ハンナ妃。リテ様から聞いておりました。なるべく手短にお願いします。」
ハンナは何が何だか分からなかった。心臓がドクドクと早くなってる。その兵士は扉の鍵を開けて中に入れてくれた。ハンナはその牢の中を見た時に余りの環境の悪さに衝撃を受けた。
「ハンナ妃。よくぞ来てくださいました。」
そう言って迎えてくれたのは村長の奥様の面影があるリテだった。リテは異常な程に顔色は悪くやせ細っていた。
「リテ様!大丈夫ですか?」
ハンナは直ぐにリテに駆け寄った。その体は以前のハンナよりも細く弱っていた。
「私は大丈夫です。それよりもハンナ妃…。私が貴方の居場所を皇帝に教えてしまいました。ずっと後悔しておりました。けれどこうやってお会いできてよかったです。」
リテは涙を流す気力もない程に憔悴しきっている。
「リテ様、申し訳ありません。目を閉じてこのままじっとしていてください。」
ハンナはそう言うとリテの胸の辺りに手をかざした。すると父の時とは全く別の色とりどりの光がリテに集まって来た。
「これは凄いわ。」
ハンナも見とれてしまう程の綺麗な光が集まってきた。そしてその光の玉がリテの身体に吸い込まれて行った。
「ハンナ…妃…?」
顔色が良くなったリテが目を開けた。
「リテ様?大丈夫ですか?」
ハンナが声をかけるとリテは涙を流して抱き着いた。リテは泣いているが先ほどよりも力強くなっていた。
「ハンナ妃。ありがとうございます。」
少し震えているリテを抱きしめると落ち着いた様だった。
「お話を聞かせてください。」
ハンナはリテをなだめるように言った。
「はい。何からお話していいのか。今日、ここに来られるのは分かっておりました。なので兵士には上手く言っておきました。この地下牢に閉じ込められてから神に毎日祈りを捧げていたら、先ほどの兵士は寄り添って話を聞いてくれる様になりました。ハンナ妃は不死鳥に触れられた事で、私達の様な魔力を持った人間には離れていてもその存在を感じる事が出来ます。そして半年前に皇帝にハンナ妃の事を伝えたのも私です。申し訳ありませんでした。私のせいでハンナ妃の平穏な生活が崩れたのではないかと思うと罪悪感で夜も眠れませんでした。」
リテは深く深く頭を下げた。
「いいんです。そんな事は気にしないでください。あの兵士もリテ様の純粋な心に感化されたのですね。やはりエクラとサーブルが言っていた様に素晴らしいお人なんですね。」
ハンナはリテを優しく抱きしめた。
「ありがとうございます。皇帝はこの世界を支配するために特別な力を手に入れようとしてるのです。エトワールを人質に取られ私はハンナ妃の居場所を皇帝に教えてしまいました。皇帝は最低な人間です。私や姉をこの城に連れて来たのもそうですし、一緒に連れて来られた村の若者達は血を抜き取られ殺されてしまいました。私もコットの術によって魔力と魂を皇帝に吸われていたのです。ハンナ妃が助けてくれなかったらもうダメでした。」
ハンナは皇帝の悪行が許せなかった。なぜこんな酷い事が出来るのだろう。
「ところで、エトワール皇子はどこに居るのでしょうか?」
ハンナがリテに尋ねると、少しの沈黙の後にリテは立ち上がった。
「エトワール皇子はこちらです。」
リテはゆっくりと奥に向かった。そして赤いカーテンをサッと開くと信じられないものが目に飛び込んで来た。
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