第21話 助けに行くぞ!

―――皇帝達が村を訪れる一時間前―――


 「村長。村人達が何かを感じて結界を張りだしました。恐らく、皇帝がここに近づいているのではないでしょうか。サラ夫妻を見つからない様にしなければ。」

メドックが慌てて伝えて来た。

「なに!?思ったよりも早かったな。そのまま結界を強くする様にメドックも手伝え。私も直ぐに行く。村の者達も地下のシェルターに避難させるように!」

「分かりました。村長はどうされますか?」

メドックは村長を心配している様だ。

「私は、皇帝達が少しでも長くここに居る様に足止めをする。」

ハンナ達は突然の事に動揺している。

「サラ夫妻は村の者と一緒に地下のシェルターへ移動してください。そこはこの村以外の人間を寄せ付けないようにしておりますので安全です。メドック、お連れしてあげて。お嬢様の事は任せて下さい。」

村長は冷静に指示を出している。

「分かりました。ハンナ。エクラさん。サーブル。気を付けるんだよ。必ずまた会おう。」

両親は不安で一杯だが気丈に振る舞っている。

「はい。お父様もお母様もどうか気をつけてください。」

ハンナ達は父と母とそれぞれ抱き合って別れを告げた。

「あの、私達はどうすれば良いですか?」

ハンナが村長に聞いた。

「村人が今、結界を張っています。そうすると馬が近づけなくなるので皇帝達は歩いてここまで来るはずです。その時間は徒歩一時間程です。ここまで来たら私が皇帝を迎え入れ時間を稼ぎます。今からハンナお嬢様達を瞬間移動で城へ送ります。皇帝が居ない時がリテとエトワール皇子を探すチャンスです。私も行きたいのだがこの村の者達を守らなければいけません。」

「承知しました。リテ様の事は私達に任せてください。もう直ぐに移動出来ますか?」

「あと五分待ってもらってよいかな。」

村長はハンナにそう言うと自分の机の引き出しを開けて何か探し始めた。

「これをあなた達にあげよう。」

そう言うと村長は短剣をハンナとエクラに渡した。

「これだと女の子でも持ちやすいじゃろ。サーブルさんにはこれじゃ。」

そういって村長から渡されたのは小さな銃だ。

「えっ、このような物頂いていいのですか?」

サーブルはまさかこんな物騒な物が出てくるなんて思っていなかったので驚いた。

「いやいや。これは殺傷能力はかなり低い空気銃の様な物だ。だがサーブルさんが持つと本物に見えるだろう。人の心を惑わし時間稼ぎになるじゃろ。」

「分かりました。ではここぞという時に使わせて頂きます。」

サーブルは銃を受け取り懐へ隠した。

「では、心の準備はいいかな?」

ハンナは息を大きく吸い込んだ。

「はい。私は大丈夫です。」

「私も準備出来ました。」

エクラも手をグッと握り答えた。

「私もいつでも大丈夫です。」

「お、おっと!その前に大切な物を忘れておった。」

村長が焦ってもう一つ何かを棚から大切そうに持って来た。

「これは私の瞬間移動の力が込められているペンダントじゃ。一度限り、一人だけに使える。もし何かあった時にこれを使いなさい。」

ハンナがペンダントを受け取るとパアっと不思議な色を放ち輝いた。

「いいか、一人だけ一回のみだからな。気を付けなさい。」

「ありがとうございます。何から何までありがとうございます。」

「いや。私達の方こそお礼を言わなければならない。リテとエトワールの為に危険を冒してまで助けに行ってくれるなんて。」

「あの二人がこのままあの皇帝の傍に居るのはとても危険です。私達に任せて下さい。」

「ありがとう。さあ。そろそろ時間だ。いいかい、いくよ。」

村長が声をかけた。

「はい。では行って来ます。」

ハンナ達三人は目をつぶって手を繋いだ。

「いくぞ!しっかり手を握って……」

村長が何か呪文の様な物を唱えているのが聞こえた気がしたと思ったら、竜巻の中に居るかのような風の音が聞こえ始め身体が回転している感覚に陥った。

「うっ!」

三人は一瞬、息が出来なくなって身体中に物凄い衝撃を受け目を開けると、城の離れの物置小屋に居た。


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