第2話
魔法少女side
……私は、魔法少女に憧れていた。
民間人を守護し、悪の権化たる怪人を討伐する。
まさに「正義」という概念をその身でもって、体現していた彼女達の姿に幼い私の心は奪われてしまったのだ。
そして、魔法少女に憧れを抱いてから時が経ち、12歳の時に転機を迎えた。
いつも通り登校していると、マスコットのような姿の精霊が目の前に現れて。
「ボクと契約して、魔法少女にならないかい?」
そう告げたのだ。
当然ながら、私は迷う事なく「魔法少女になります」と即答する。
こうして、夢に見た日々が幕を開けた。
「本日付けで魔法少女になりました。
怪人と戦う力を与えてくれる精霊と契約を交わした私は、魔法少女協会に加入し、大勢の魔法少女の前で挨拶をする。
けれども、緊張で上手く話せない。
そんな私に手を差し伸べてくれたのは、優しげな笑顔が素敵な茶髪の女の子。
「詳しい話は契約を担当した精霊から聞いているよ。私の名前は
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
カナミ先輩の手を握った瞬間に、鳴り響く拍手。
親しみを込めた視線に、思いやりのあるアットホームな雰囲気。
この場にいる魔法少女の誰もが、新米の私を暖かく向かい入れてくれて。
本当に嬉しかったことを覚えている。
「……先輩。いつもの、お願いします」
「はいはい、任せてっ。『拘束』」
カナミ先輩が魔法の詠唱を行うと、地面から這い出た触手によって、逃走を試みていた怪人が縛られた。
次の瞬間、私は勢い良く刀を振り下ろし、奴の体を真っ二つにする。
そうすると、怪人はボロボロと崩れ始め、やがて塵となり消え去ってしまった。
「いやー、ツバメちゃん。今日も大活躍だったね。ひゅんひゅん飛び回って、ズバーっと一閃。侍みたいでカッコよかったよ!」
「いえ……カナミ先輩の的確なサポートがあってこそです」
「謙遜しないの。ツバメちゃんはまだまだ新人なのに、もう十体も怪人を討伐してるんだから。私は凄いんだぞーって感じで、どどーんと胸を張った方がいいよ!」
ニヤニヤと笑いながら、カナミ先輩は私の脇腹を肘でつつく。
出会ってから、もう一年。
幾度となく共に戦地を駆け回った彼女とは、誰よりも仲良くなっていた。
カナミ先輩はとても明るい性格で、無口で陰気な私にも、ぐいぐいと距離を詰める。
そのため、友達が1人もいなかった私は、あっという間に気を許してしまった。
今となっては、仕事中どころか休日も、彼女と行動を共にする。
一緒に訓練に励んだり、ショッピングに出かけたり、2人きりで旅行だって行った。
恥ずかしいので絶対に口には出さないけれども、自分の中で心の友と認定する程度には、カナミ先輩に心を開いていたのだ。
そんなカナミ先輩とは、戦闘面でも相性抜群。
身体能力が高い私が前衛を務め、支援向きの魔法を持つ彼女が後衛でサポートを行う。
あらかじめ役割を分担し、それに徹していれば、どんなに強力な怪人が相手でも遅れを取ることはない。
お互いに魔法少女の活動に対して前向きだった事も相まって、他の追随を許さない速度で私達は成長し、順調に戦果を上げていた。
「あれあれ? 後輩におんぶに抱っこのカナミちゃんじゃん。あーあ、また先越されちゃったわー」
不意に声をかけられる。
複数人の取り巻きを連れながら、私たちの前に現れたのは、
魔法少女歴が長いベテランで……私が、誰よりも大っ嫌いな人だった。
「相変わらず、仕事が早いね。折角、救援に来たのに無駄足になっちゃった」
「はは……ありがとうございます」
「礼なんて言わなくていいよ。別にあんたを助けるために来たわけじゃないし。つーか、どうせ今回も後輩ちゃんに戦わせて、自分は後ろに引っ込んでたんだから、私達じゃなくて、後輩ちゃんに礼を言うべきじゃない?」
「それもそうですね。いつもありがとうね、ツバメちゃん」
「…………礼なんていらないです」
「きゃはは。無能な先輩の礼の言葉なんて要らないってさ。やば、面白すぎ」
シオウ先輩は、ずっとこんな感じ。
会うたびに嫌味ったらしいセリフを吐いて、こちらを馬鹿にするように嘲笑う。
それも、カナミ先輩を執拗に狙って。
「やっぱりさぁ、あんたは魔法少女向いてないよ。穢らわしい怪人の子供には務まらない役目なんだって」
その理由は至極単純。
カナミ先輩が普通の人間ではなく、人間と怪人の間に生まれた子供だったから。
強い差別意識を持っているシオウ先輩は、これ以上ないほどに嫌っていたのだ。
この世界において、怪人が何故生まれるのか……まだ分かっていない。
しかし、生態については、徐々に解明されつつあった。
怪人という存在は生まれながらに人間の大人と同等の思考能力を有しながらも、本能に従って動く傾向にある。
個体によって重んじる本能は異なり、食欲に従う怪人もいれば、執拗に他者を痛めつける怪人もいて。
中には、性欲に従って異性を襲う怪人もいる。
そして、そういった怪人に女性が襲われて妊娠した場合、堕胎する事は出来ない。
このような事情から、ごく稀に怪人と人間の子供が生まれ落ちる場合があって。
……怪人の血が流れている人を忌み嫌う人々も、一定数存在しているのだ。
「…………」
カナミ先輩は俯き、唇を噛み締める。
言いたい事が沢山あるにも関わらず、必死に我慢しているのだろう。
そんな彼女の姿を見て、沸々と怒りの感情が湧いてきた。
先述した通り、私はカナミ先輩が好きだ。
恋愛的な意味ではなく、あくまで一人の人間として。
確かにカナミ先輩は普通の人間ではないかもしれないが、私にとっては些細な問題だ。
幼い頃に親に捨てられながらも、彼女は他人に優しくあり続けた。
その甲斐あって精霊に認められて魔法少女となり、人々を守る強さを得るために過酷な訓練をこなしていた。
時には、心ない民衆に蔑まれようとも、不満を表に出す事なく戦い続けた。
……私は、カナミ先輩のパートナー。
故に彼女の苦労も努力も全部知っている。
だからこそ、カナミ先輩の事を知ろうともしないくせに、不当に貶めようとするシオウ先輩が許せなかった。
だからこそ、文句を言ってやる。
そう心に決めて、口を開こうとすると。
「……ツバメちゃん、ダメだよ」
他でもないカナミ先輩に止められる。
「でも、私は……」
「そろそろ、失礼します。シオウ先輩」
カナミ先輩は愛想笑いを浮かべながら、深々と頭を下げた。
次いで、彼女は怒りで震える私の手を引いて、すたすたと歩き始めた。
決して、後ろを振り返る事なく。
当然ながら、納得はできない。
今のままでは気が済まなかったけれど、当の本人であるカナミ先輩が荒事を望まないのなら、抑える他なかった。
「ツバメちゃん。気持ちは嬉しいけど、私は大丈夫だから。心配はご無用なのです」
いつもの調子で明るく振る舞うカナミ先輩。
けれど、心なしか……微かに声が震えているような気がして、胸が苦しくなった。
それに加え。
「…………」
後方からは、じっとりと粘つくような気持ち悪い視線を感じて。
……嫌な予感がしてならなかったのだ。
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