転生したら怪人だったので、見込みのある魔法少女を片っ端から悪堕ちさせる。
門崎タッタ
第1話
「悪堕ち」という概念をご存知だろうか。
文字通り、正義側の人間が、悪に堕ちる。
これこそが、悪堕ちであり。
昔から、俺は悪堕ちが大好きだった。
主人公サイドのキャラクターが、悪に魅入られて妖艶な雰囲気を醸し出す。
肌面積の少ない衣装から、肌面積の多い衣装にコスチュームチェンジすると尚良い。
挫折してしまったキャラが力を追い求め、強くなるためなら何でもするようになる。
すくすくと成長する正統派な主人公と決別する展開がついてくると尚良い、などなど。
清廉潔白な、善なる存在を穢してしまう。
そんな背徳感を初めて味わった時、俺は心を鷲掴みにされてしまった。
絶対に悪事に手を染めないような人間が、何らかの要因で悪の側に回る「悪堕ち」に惹かれる性癖の扉が開かれてしまったのだ。
そんな俺は14歳の時に災害に巻き込まれて死亡し、現代とは異なる世界に転生した。
魔法少女という存在が世界平和のために怪人と戦う、夢のような異世界に。
それも、怪人として。
……となれば、やることは一つ。
正義を掲げて戦う、魔法少女達を悪堕ちさせる。
前世の倫理観や正義感を投げ捨てて、己の性癖の赴くままに生きると決意したのだ。
そうと決まれば、話は早い。
溢れんばかりの欲望を活力に変えて、とにかく俺は努力した。
元魔法少女という異例の経歴を持つ悪の組織の総統の指導の元、体を鍛える。
身体能力が高くなければ、いざという時に何も出来ないからな。
その結果、瓦一枚すら割れなかった俺が、鉄筋コンクリートを素手で破壊できるようになった。
次に、自称最強の魔法少女だった総統の指導の元、対魔法少女の戦い方を学ぶ。
魔法による遠距離攻撃の対処法や、大人数を相手にする際の立ち回り方など。
どんなに肉体を鍛えても、有効に使えなきゃ意味がないからな。
その結果、喧嘩すらした事なかった俺でも、並大抵の魔法少女には負けない程度には強くなって。
ようやく、念願の時がやってきた。
「う……ぐぅ……」
眼前に倒れているのは、一人の女の子。
艶やかな金髪に、切れ長な碧眼と、どことなくクールそうな雰囲気。
ヒラヒラしたフリルが特徴的な衣装に身を包む少女は、紛う事なき魔法少女であり……彼女は、しきりに涙を流していた。
念の為に言っておくが、俺が倒したり、泣かせた訳では断じてない。
悪の組織の総統に頼まれて、夜ご飯の材料を買いに行っていたら、路地裏で倒れてる彼女を見つけた。
ただそれだけなのである。
彼女が魔法少女の姿のまま路地裏で倒れていた理由は大方察しがつく。
だが、そんなのはどうでもいい。
今、俺がやるべきなのは……絶好の機会を逃さないこと。
……魔法少女を悪堕ちさせるチャンスを掴み取る事だけ考えればいいのだ。
「クックック。ようやく、この日が来たぜ」
ニタリと口元を歪ませてそう告げると、少女は苦しげな表情を浮かべた。
自らの前に現れた存在が、明確な悪意を有していることを感じ取ったのだろう。
「よいしょっと」
「……どこに運ぶつもりなの?」
「悪の組織の本拠地だよ。そこで俺は……お前という存在を変えるのさ。悪の道に生きる事が喜びとなるようになァ!!!」
「……っ!」
見知らぬ男にお姫様抱っこされている少女の顔が、一気に青ざめる。
……ククク。
なんとそそる表情だろうか。
存分に、絶望するが良いさ。
もはや、彼女に希望なんてものはない。
体は弱りきっており、身柄を俺に抑えられている今、逃れられる術はない。
俺の手によって悪堕ちする他ないのだ。
「怪人一号、ただいま帰還しました!」
街の片隅にあるこぢんまりとした事務所。
逃げようとする魔法少女を抑え付けながら、我がアジトの扉を開く。
そうすると、タブレットで動画を見ながら、ソファに寝転がる女性が視界に入った。
ぴたぴたの白いニットによって強調されている豊満なバストとボサボサの黒髪。
目の下にあるクマが印象に残る彼女こそが、俺の生みの親。
元魔法少女である悪の組織の総統だ。
とはいっても、構成員は俺達二人しかいないので、悪の組織とは言えないかもしれないが。
「総統。魔法少女を連れて帰って参りました。これより、悪堕ち計画を開始します!」
「うい〜」
返事代わりに、やる気のない声を出す総統。
うーん、ダラダラする姿もお美しい。
彼女には色々と世話になっているので、何が何でも恩を返す心持ちだ。
……さぁて、そろそろ始めるか。
悪魔の所業。
魔法少女悪堕ち計画をなァ!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます