君は死んだ僕は眠った

クワトロフォルマッチ

第1話

僕はいつもの様に君に見送られて会社に向かった。


いつもと同じ通勤


いつもと同じ会社


いつもと同じ業務


なにより、いつもと同じ君だった。


その日帰って、いつもなら聞こえてくる。


「おかえりなさい」


という声が聞こえないのを疑問に思いながら家に入った。


リビングに入ると部屋が暗く、いつも君がいる椅子には居なくて。


いつもあつあつのご飯を作ってくれるのに、今日はラップで保管された冷めたご飯が僕の分だけテーブルにのっていた。


何か用事ができたのかな、言ってくれれば良いのに。


そう思って先にご飯を食べていた。


その後風呂に入って、しばらくしても君はいない。


心配になって電話をかけた。


出てこない。


急いで家中を探した。


君は出てこなかった。


実家に電話しても、知らないと帰ってきた。


最後に庭にある物置を探した。






そこには変わり果てた君がいた。


目のハイライトが消え、首で体重を支える君の姿が真っ先に目に入った。


脳が追いつかない、なぜ君が?思い詰めた様子もなかった。どうして


さまざまな思考が、浮かんでは消えていく。


頭がまとまらない。


ただ僕は呆然とそこに立っていた。






その後は覚えていない、どうやら警察は呼んだらしい。


心と脳は空っぽで、なにも記憶に残らなかった。


次の記憶は、葬式だ。


お悔やみ申し上げます、とかご心痛お察しします、とか色々言われた。


けど皆、夫の僕を疑っている様だった。


思えば、警察と話していた時間が長い様な気もする。


当たり前だ、君は専業主婦で、子供もいなかったのだから。


君が死んだのは、僕のせいだ。


原因は僕以外にいない。


葬式の後。


僕は家の中で過ごした。


辛いのは、周りからの痛い視線じゃなく、僕のせいで死んだことがよく理解できることだ。


何が駄目だったのだろうか、何が負担だったのだろうか。何故言ってくれなかったのだろうか。


けど一番辛いのは、君という責任から解放されたと思う気持ちがあることだ。


君にかけたお金が無駄になったと、一時でも考えてしまったことだ。


今まで支えられてきたのに、愛していたのに。


全部、心の奥底では違ったのであろうか。


僕は、こんな自分が許せない、許せるわけがない。


人を殺し、死んだことを喜んでしまった。


そんな僕が、普通に、いつもの通りに過ごしてはいけない。


僕が悪い、僕のせいで君は死んだ。


一週間立った頃、寝たくなった、全てを忘れてしまいたかった。


けど起きたら君はいなくて、僕がどうしようもない奴であることも事実で。


おかしくなりそうだった。


いや、おかしくなりたかった。


罰が欲しかった。


罪から逃れたかった。


けど違う、これは罰じゃない。


ただただ部屋の中で朽ちていくことではない。


今まで、あぁなんて僕は可哀想なのだろうと、心のどこかでは慰めていた。


違うのだ、君が感じていた苦しみは死んでしまったからにはわからない、終わらない。


君と同じ苦しみを、君より苦しい罰が欲しい。


終わりたい、罰を受ければ終われるから。


けど終われない、終わってはいけない、これが僕に残された罰だから。


罰する人は自分だけ。


だから、寝ることにした。


ずっと罰を受けるために、僕の奥底の何かに、体をあけ渡すことにした。


僕はずっと寝ていれば良い。


ずっと生きて、ずっと苦しむきっとこれが、僕の罰だから。


さようなら


そんな言葉だけ残して僕の体はいつもと同じ通勤に戻った。


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君は死んだ僕は眠った クワトロフォルマッチ @oukadesuyo

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