お隣の水上さん
柊なのは
お隣の水上さん
俺、
そのため周りは眠り姫と彼女のことを呼んでいる。本人を前にしては呼ばないが……。
そんないつも寝ているイメージのある彼女の名前は
肩にかかるぐらいの黒髪にお人形さんのような可愛らしい容姿の彼女は男子からモテていて、告白されている噂を入学してから2ヶ月経った今日まで何度か聞いたことがあるが、彼氏がいるという噂はまだ聞いたことがないのでおそらく今までの告白は全て失敗に終わっているのだろう。
水上さんは人との付き合いが苦手なのか、それとも嫌いなのかわからないが誰かと話してるところはほとんど見たことがない。
今も昼休みになり、クラスメイトは友達同士集まって楽しそうにしているが水上さんは授業が終わった途端、机に突っ伏していた。
(食べるより寝るが優先なのかな…………)
彼女のことが少し気になりつつも自分は昼食を取るためリュックから今朝作ったお弁当を取り出し、それを持って友人の元へと向かう。
中学からの友達である
「ん? 一希、今日は珍しくお弁当?」
「おぉ、気付いたか翔琉。里美に作ってもらったんだ」
「へぇ、それは良かったな」
一希には中学から付き合っている彼女がいる。決して彼女がいることが羨ましいわけではないが、たまに彼女がいたらどうなんだろうと想像することがある。
まぁ、俺はあまり人と話すの苦手だし、女子とはほとんど話したことないし、恋愛なんて程遠いこと。
お弁当の蓋を開けて箸を持ったところで一希はお弁当片手に口を開いた。
「そういや、翔琉は、水上さんとは話したことあるか?」
「水上さん? 授業中以外には話したことないけど……」
「隣の席なのに?」
「あぁ」
そう、隣の席だが一度も話したことがない。ペアワークで話し合う時にちょこっと話す程度だ。授業中以外は基本寝ているので話しかけにくい。
「一度は話してみたいけど、難しいよな」
水上さんにはミステリアスな部分が多すぎる。だからだろうか、少し彼女のことが気になる。
「いや、水上さん、寝てること多くて話しかけるなオーラあるけどさ、起きてるときに話しかけたら話してくれるかもしれないぞ。授業中は話してくれるみたいだし」
「起きてるときに……か」
今まで起こすわけにはいかないと思い、話しかけなかったが、起きている時間は少しだけだがある。その時がチャンスかもしれない。
「頑張れ、翔琉」
「…………タイミングがあれば」
「それ、話しかけないやつじゃん」
***
放課後。先生に提出しなければならないものがあったことをホームルーム後に気付き、急いで職員室へ向かった。
先生に提出し終え、教室に戻ろうとすると堤さんと名前を呼ばれた。
「まだいると思うからこのノート、水上さんに渡してほしいの」
「水上さんにですか?」
話すきっかけにはなる。けれど、このホームルーム後の水上さんって確か、寝ていた気がする。
「お願いできるかしら?」
「…………わかりました。水上さんに渡します」
断ることはできず、先生から水上と書かれたノートを受けとると職員室を出る。
教室に戻るとクラスメイトは皆帰っており、水上さんはというとホームルームが終わってすぐの状態と同じ。つまり寝ている。
いつ帰るんだろう……。まさか学校で夜を過ごして! いやいや、それはないか。
自分の席の前に立ち、一度大きく息を吸い、息を吐く。
(起こして怒られませんように……)
「水上さん、ノートを先生から預かっているんだけど」
声をかけてみるが、彼女は全く起きる様子はなく、今度はさっきより大きな声を出す。しかし、起きない。
寝ている女子に触ってもいいのかと思ってあまりやりたくはなかったが、声で気付いてもらうのではなくトントンと肩を叩いて気付いてもらうことに変更。
トントントンと優しく彼女の肩を叩くと水上さんから「んむぅ」と可愛らしい声が聞こえてきた。
慌てて手を引っ込めると水上さんは顔を上げてうんと背伸びをしていた。
(あっ、起きた……トントンがいいのか)
よくわからないことに納得しそうになっていると彼女は俺のことをじっと見てゆっくりと口を開いた。
「えっと…………隣の席の人?」
「えっ、あぁ…………堤翔琉です」
「堤くん……ん、覚えた」
覚えられてない状態で今まで授業の時、話してたんだ……そういや、名前呼ばれたことなかったかも。
自己紹介で目的を忘れそうになったが、ノートのことを思い出し、彼女に手渡そうとしたが、水上さんはまた机に突っ伏してしまった。
「み、水上さん、まだ話終わってないんだけど」
「ん~、自己紹介しに来たんじゃないの?」
寝ているところを起こされて嫌だろうけど、俺にはこのノートを渡す目的がある。
「自己紹介するだけに起こさないよ。ノート、先生から預かったから渡しに来たんだ」
彼女にノートを渡すと水上さんはゆっくりとそれを受け取った。
「ありがと……」
「どういたしまして。寝てるところ起こしてごめん。それじゃあ、俺は────?」
本当はもう少し話していたかったが、寝ているのをこれ以上邪魔するわけにもいかない気がしてこの場から立ち去ろうとしたが、水上さんは手を伸ばし、俺の服の裾をぎゅっと引っ張ってきた。
「水上さん?」
「堤くん………」
じっと見つめる彼女の瞳は吸い込まれそうなとても綺麗なもので、目が離せなかった。
(初めて、ちゃんと顔見たかも……)
水上さんは服から手を離すと俺の前に立ち、近づいてきて、ゆっくりと口を開いた。
「いい匂いする」
「…………えっ?」
何されるのと少しドキドキしたが、彼女の言葉に俺は困惑する。
今、いい匂いって言われたよな……。臭いとか言われるより嬉しいが、いい匂いなんて女子に言われたことは一度もない。いい匂いって俺は、今、どんな匂いしてるんだ。
「甘い匂い……」
「あまっ……水上さん!?」
今日は甘いもの食べてないけどなどなと思っていると水上さんが前に倒れそうになったので慌てて受け止める。
「大丈夫?」
「うん。ありがと、つついくん」
顔を上げ、ニコッと笑い、水上さんはお礼を言う。素敵な笑顔……それよりも気になることがある。
「あの、堤です」
「?」
お隣の水上さん 柊なのは @aoihoshi310
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