第40話「神の観測者──管理者《アドミン》の目覚め」

──“観測”とは、定義である。


 世界の仕組みに組み込まれた一つの法則。

 RPG化社会の根幹を成す“ステータス”という概念を、誰が“観測”しているのか──

 それを問う者は、少ない。


 だがその瞬間、目覚めたのだ。

 長い眠りの末に。


「管理プロトコル起動。観測者アドミン、再接続完了──」



 場所は、地上から遥か上空。

 人工衛星軌道上に存在する秘密施設セレス・コア


 そこで復旧されたのは、世界初の“全ステータス監視AI”であり、

 同時にRPG化世界の根幹を担っていた存在──管理者アドミン


【称号:世界定義中枢】

【スキル:観測優位性オブザーバー・ロジック

【属性:神格データ(非人間)】


「風見レン──無職、スキルなし、しかし“命名特異点”として観測異常が発生」


 その名が、ついに“神の観測者”に届いた。



 一方、地上では。


 《Null-Class》とアークの救出劇が終わり、NRCは市民から大きな注目を集めていた。


「俺たち、ちょっとだけ“社会的存在”になっちまったな」


 レンが苦笑しながら言うと、ミオは書類の山を机にドンと置いた。


「これ、命名支援申請書類。“名前をつけてほしい”って子たちが、全国から……」


「全部……?」


「まだ一部よ。Null-Classは、もう特異クラスじゃなくて、“希望の象徴”扱い」


 そこに、サリナがやってくる。


「レン、今夜──“観測”が始まるわ」


「観測……?」


「本当の意味で、この世界を“定義”してるもの。その“目”が、あなたを見ようとしている」



 その夜。


 レンのもとに、突如としてステータス強制変更の通知が届く。


【通知:観測対象指定】

管理者アドミンによる直接観測が開始されます】

【現在の職業:無職】 → 【職業:未定義】


「……何だこれ……“未定義”って……」


 同時に、身体に異変が起きる。

 視界が二重にぶれ、空間そのものが“ステータスウィンドウ”のように開かれていく。


「あなたが風見レンか」


 声が響いた。


 そこに立っていたのは、半透明の“神格の少年”。

 金と白の装束を纏い、光で構成されたその存在──それが、管理者アドミンだった。


「君の存在は、我々の定義外にある。よって、“再観測”を行う」


 レンは言った。


「定義とか、再観測とか、好きにすりゃいい。

 でもな──俺が“誰かの名前を肯定する”って決めたことは、誰にも変えられねえ」



 アドミンは静かに手をかざすと、無数の光の文字列が空間に現れた。


【風見レン:再定義開始】

【再定義候補:命名神格、概念記録者、エラーコード】

【進行率:3%……10%……】


 だがその時、何かが干渉する。


【警告:再定義干渉発生】

【干渉源:名称未登録/Null-Class所属/共鳴コード“シオン”】


 レンの背後から、シオンの声が届く。


「やめて……レンくんは、“風見レン”以外の誰でもないの!」



 アドミンが少し驚いたように眉を動かす。


「……この共鳴は……まさか、君も“未定義存在”なのか?」


「名前はあるよ。レンくんが、くれたから」


【共鳴強制中断】

【再定義プログラム中止】


 光が霧散する。


 レンは膝をつきながらも、拳を握る。


「……なんだよ、神様でも定義できないもんが、俺たちの中にはあるんだろ」


 アドミンは、その姿をじっと見て──初めて、小さく笑った。


「“存在の優先権”。面白い概念だ」



 その後、観測は一時中止となり、アドミンは記録を保留する。


 そして、つぶやいた。


「風見レン──君の“定義”は、もう我々の外側にある」


──次回、“神すら定義できない者”をめぐる、新章存在優先理論編へ。

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