第35話「存在再構築スキル──命名者の真価」

──その日、共鳴支援室に“封鎖命令”が届いた。


【発令元:RPG省秩序統括局】

【対象施設:共鳴支援室】

【理由:定義規範違反の疑い(命名行為による構造干渉)】


 つばきは憤る。


「定義されてない子に“名前を与えた”だけで、犯罪扱いなの……?」


「そうじゃない。問題は、“その名前が世界に影響を与えた”って点だ」


 ミオがタブレットを操作しながら呟く。


「つまり“命名者”という存在自体が、規格外スキルと判断されたってことか」



 支援室は一時的に機能停止を余儀なくされた。


 レンとシオンは裏路地の仮拠点Null-Labへ移動し、ひっそりと過ごしていた。


「……ここ、暗いね」


 シオンがつぶやく。


 レンは苦笑しながら、部屋の明かりを点ける。


「でも、君がいるから……少しは明るいかも」


 その言葉に、シオンは照れくさそうにうつむいた。



 その夜、レンのスキルが変化する。


【スキル進化:共鳴命名 → 再構築命名(リビルド・ネーム)】

【効果:命名対象の存在構造を再構築/新たなスキル・職業を創出可能】

【備考:ステータス外干渉領域に分類され、国家規範との抵触に注意】


「存在構造を、再構築……?」


 レンは驚く。


 それは“名前を与える”だけでなく──

 “その存在を、世界にとって意味あるものへと変える”能力だった。



 試しに、レンはシオンに向けてスキルを発動した。


「──ネーム・リビルド:対象シオン


【再定義開始:命名対象の構造解析中】

【中核値:“孤独”/付随因子:“無音”/感情共鳴:“希望”】


【提案職業:音律詠唱士(エコー・シンガー)】

【推奨スキル:共鳴歌ソナタ・ゼロ


「……歌?」


 レンの端末が振動し、シオンのステータスに新たな職業が刻まれる。


【職業:音律詠唱士】

【スキル:共鳴歌ソナタ・ゼロ

【称号:名前持つ者】



 シオンは呟く。


「わたし……初めて、自分の声に意味があるって思えた……」


「それは、君が“名前”と“声”を得たからさ。

 この世界で“意味を持つ存在”に、なれたからだよ」


 レンはそう言いながら、シオンの手を取った。



 しかしその瞬間、仮拠点の端末がけたたましく鳴り響く。


【強制ログイン:秩序統括局・査察官「サリナ・クローデル」接続要求】

【目的:命名スキル保有者の即時拘束と能力凍結】


 画面に映ったのは、鋭い眼光の女性査察官だった。


「風見レン。あなたの命名スキルは“存在干渉級”として規制対象です。

 即刻投降し、定義圏内へ戻りなさい」


「……嫌だね。君たちが定義する“正しさ”じゃ、彼女は生きていけない」



 査察官サリナは、端末越しに警告を放つ。


「命名とは、神に許された行為だ。人間風情が踏み込んでいい領域じゃない」


「なら証明してやる。人間だって、誰かの名前を呼んで──世界を変えていいってことを!」


 レンの言葉に、仮拠点が光に包まれる。


【新共鳴発動:風見レン ⇔ シオン ⇔ 共鳴支援室構成員】

【限定モード:Null-Resonance Field(無定義共鳴領域)生成中……】



 “名づけ”とは、誰かを“この世界に存在していい”と認めること。


 それは“再構築”という力を持ち、

 社会の規範すら揺るがす、新たな秩序の扉を開く。


 シオンが、小さく歌う。


「──名前を呼んで、私をつないで。孤独に光をくれる声を──」


 その歌は、都市中に広がり始めた。


 ──次回、「査察官サリナとの対決」と“命名革命”が動き出す。

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