第35話「存在再構築スキル──命名者の真価」
──その日、共鳴支援室に“封鎖命令”が届いた。
【発令元:RPG省秩序統括局】
【対象施設:共鳴支援室】
【理由:定義規範違反の疑い(命名行為による構造干渉)】
つばきは憤る。
「定義されてない子に“名前を与えた”だけで、犯罪扱いなの……?」
「そうじゃない。問題は、“その名前が世界に影響を与えた”って点だ」
ミオがタブレットを操作しながら呟く。
「つまり“命名者”という存在自体が、規格外スキルと判断されたってことか」
◇
支援室は一時的に機能停止を余儀なくされた。
レンとシオンは裏路地の
「……ここ、暗いね」
シオンがつぶやく。
レンは苦笑しながら、部屋の明かりを点ける。
「でも、君がいるから……少しは明るいかも」
その言葉に、シオンは照れくさそうにうつむいた。
◇
その夜、レンのスキルが変化する。
【スキル進化:共鳴命名 → 再構築命名(リビルド・ネーム)】
【効果:命名対象の存在構造を再構築/新たなスキル・職業を創出可能】
【備考:ステータス外干渉領域に分類され、国家規範との抵触に注意】
「存在構造を、再構築……?」
レンは驚く。
それは“名前を与える”だけでなく──
“その存在を、世界にとって意味あるものへと変える”能力だった。
◇
試しに、レンはシオンに向けてスキルを発動した。
「──ネーム・リビルド:
【再定義開始:命名対象の構造解析中】
【中核値:“孤独”/付随因子:“無音”/感情共鳴:“希望”】
【提案職業:音律詠唱士(エコー・シンガー)】
【推奨スキル:
「……歌?」
レンの端末が振動し、シオンのステータスに新たな職業が刻まれる。
【職業:音律詠唱士】
【スキル:
【称号:名前持つ者】
◇
シオンは呟く。
「わたし……初めて、自分の声に意味があるって思えた……」
「それは、君が“名前”と“声”を得たからさ。
この世界で“意味を持つ存在”に、なれたからだよ」
レンはそう言いながら、シオンの手を取った。
◇
しかしその瞬間、仮拠点の端末がけたたましく鳴り響く。
【強制ログイン:秩序統括局・査察官「サリナ・クローデル」接続要求】
【目的:命名スキル保有者の即時拘束と能力凍結】
画面に映ったのは、鋭い眼光の女性査察官だった。
「風見レン。あなたの命名スキルは“存在干渉級”として規制対象です。
即刻投降し、定義圏内へ戻りなさい」
「……嫌だね。君たちが定義する“正しさ”じゃ、彼女は生きていけない」
◇
査察官サリナは、端末越しに警告を放つ。
「命名とは、神に許された行為だ。人間風情が踏み込んでいい領域じゃない」
「なら証明してやる。人間だって、誰かの名前を呼んで──世界を変えていいってことを!」
レンの言葉に、仮拠点が光に包まれる。
【新共鳴発動:風見レン ⇔ シオン ⇔ 共鳴支援室構成員】
【限定モード:Null-Resonance Field(無定義共鳴領域)生成中……】
◇
“名づけ”とは、誰かを“この世界に存在していい”と認めること。
それは“再構築”という力を持ち、
社会の規範すら揺るがす、新たな秩序の扉を開く。
シオンが、小さく歌う。
「──名前を呼んで、私をつないで。孤独に光をくれる声を──」
その歌は、都市中に広がり始めた。
──次回、「査察官サリナとの対決」と“命名革命”が動き出す。
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