第16話「第二審査:共鳴と分断の迷宮」

 重力が反転したかのような感覚の中、レンたちは次なる“階層ゲート”をくぐった。


 視界が戻ったとき、彼らは“赤黒い迷宮”の中央に立っていた。


 そこは、脈動するような肉塊の壁がうごめき、空気が熱く重い空間だった。


 ルカが震える声で言う。


「ここ……空間自体が“コード情報”で構成されてる……」


 つまり、これは“生きているデータ迷宮”。


 第二審査の舞台は、情報生命体としての神域そのものだった。


『第二審査開始──条件:コード共鳴による“回廊突破”』


 アナウンスが響く。


『ただし、通行には“二人一組”の協調が必須です。単独行動は排除されます』


「協調……つまり、誰かと組めってことか」


 レンが呟くと、背後から黒嶺カイの声がした。


「だったら、組まないか? 君と僕で、コードの異常値を揃えれば、面白いことができそうだ」


 カイが不敵に笑う。


「お前、さっきまで馬鹿にしてただろ」


「馬鹿にしてたからこそ、興味があるんだ。……君の“バグ”、使えるかもしれない」


 つばきが前に出て、静かにレンの手を取る。


「……私は、レンと行く」


「……ふむ。残念だ」


 カイは肩をすくめると、別方向へ歩き出した。後を追うように、リノンがついていく。


 残されたユラが、レンたちに近づいてきた。


「私は……“選択しない”という選択をしてる。でも、あなたの選択肢には、希望の匂いがした」


 そう言って、ユラは誰とも組まずに“第三通路”へと歩き出した。


「単独は排除されるって……!」


「大丈夫。未来の一部には、“それでも生き残る私”もあるから」


 そう呟いて、彼女は暗闇に消えた。


 残されたのは──レンと、つばき。


 二人は、共に通路へ足を踏み入れる。


 そこは、“記憶”と“コード”がねじれたような空間だった。


 床には過去の出来事が映り、天井には未来の幻影が揺れている。


「これ……俺の中の映像か?」


「違う。私の方も……混ざってる……」


 そのとき、視界が崩れた。


 目の前に、“レンとつばきの記憶”が混ざり合った存在が現れる。


──少年が、実験室で少女をかばって泣いている。


──少女が、廃棄処分を告げられた日、黙って夕焼けを見ていた。


「これは……もしも、俺たちがずっと一緒だったら、の記憶……?」


 ルカの解析が通信で届く。


《コード共鳴が一定以上を超えると、“交差記憶”が再生されるらしい》


 突然、壁が崩れ、巨大な“コードビースト”が現れた。


【敵性体:断裂コード体“リザイド”】


「来るぞ!」


 レンが前に出て、スキルを展開する。


【共鳴スキル:意識同期(ソウルリンク・シンク)】


 つばきの背中に、再び“黒銀の羽根”が展開された。


 コードαの力が、部分的に発現する。


「……お願い、レン……一緒に、終わらせよう」


「おうよ!」


 レンが前衛、つばきが後衛の戦術が噛み合い、コードビーストを撃破。


 その瞬間、空間に光の橋が現れる。


『第一回廊、突破確認──共鳴度:93%』


 ルカの声が届く。


《他のチーム、カイとリノンは共鳴度81%。ユラは“単独判定条件”に突入してる。……もしかすると──》


 空間が振動し、天井から“選別の杭”が落ちてくる。


 単独行動者は、ここで“存在消去”される。


「ユラ……っ!」


 つばきが叫んだ瞬間、奇跡が起きた。


 杭が触れる寸前、空間が捻じれ、“逆再生”が起きる。


【スキル:因果反転(パラドックス・リセット)発動】


 ユラの足元が光に包まれ、彼女は杭をかわす形で次の階層に“飛ばされる”。


《未来予知じゃない……未来介入……!》


 レンが呟く。


「彼女……本当に、ただ者じゃねぇな……」


 光の橋の向こうで、再び迷宮が開かれる。


 その先には、第三審査──そしてコードの“崩壊者”が待ち受けていた。

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