カースド・ゴブリン・ジェネラル
咆哮、ソレに頭がガンガンと震える。
魔力が含まれているのだろうか? 少なくとも、強いことは理解できる。
「『エンチャント:頭』」
「有難うございます、死ね!!」
瞬間、スゥッと頭のモヤが晴れた。
咆哮の影響が和らぐ、きっとアンさんがスキルを使ってくれたのだろう。
感謝をしながら、剣を突き立てる。
言葉の感謝をするのならば、先に倒すのが優先ッ!!
腹部に力を込めて、目の前のゴブリンを切る。
ギギッw
「『剣術』、からの『インパクトスラッシュ』ッ!!」
侮蔑するかのように見てくるゴブリンの目を、左手で潰し片手で持っていた剣を振り抜く。
やっぱり、足り無い。
基礎的なレベルが低くて切り裂け無い、圧倒的な技量を持つのならばともかく今の私はこれが限界だ。
だから、連打しよう。
弱いのならば手数で押す、私が学んだ戦い方だ。
1本の矢で足りなければ5本の矢で、5本で足りなければ10本で。
何百と攻撃を与えれば、いつかは勝てるッ!!
「『剣術』、からの『インパクトスラッシュ』ッ!! もう一回『インパクトスラッシュ』!! ついでに『大切断』ッ!!」
「コンボか、悪くない。だけどソレをするならスラッシュを3回入れた方がいいぞ、スタミナの消費が少ない」
「なるほど、分かりました!!」
アンさんのアドバイスを聞きながら、一気に迫る。
ダメージ蓄積も十分、ソレに相手の体幹も限界だろう。
地面を蹴り、そのまま体当たりをして地面に組み伏せる。
このゴブリンはボスではない、だがソレなのにここまで強化されているのか。
驚きを噛み殺す、その驚愕は後に取っておくべきだ。
今は先にゴブリンを倒す、ただソレだけをやれば良い。
「死ねぇぇええ!!」
「こっわぁ……」
「何か言いましたか?」
「いや、別に」
頭を破壊して、剣を再び構える。
数秒もすれば血液はポリゴン片に変化するだろう、滑る心配はない。
息を整え、スタミナの回復に努める。
戦闘中のスタミナの枯渇は、その時点での敗北を意味する。
もしスタミナが枯渇すれば、全身に過剰な倦怠感が走りまともに動け無い。
これはDWOにおいて何度も問題視されてきた要素だ、実際に私もスタミナ管理を間違えて死んだことがある。
「はぁはぁ、よし……っ!! まだ行ける……!!」
再び息を整え、剣を構える。
再びスキルを連続的に発動し、一気に追い詰めていく。
確かに私は弱い種族だ、だけど何もでき無いわけじゃない。
倒す、ソレだけを考えて挑めばいい。
嵐のように攻撃を繰り出す、ソレは次々に強化されたゴブリンにヒットしダメージを稼ぐ。
だが、やはり限界は近い。
スタミナの消費が激しく、これ以上負担が増えれば私は戦えなくなる。
けれど、この一体ぐらいは……!?
「っぶねぇな? 全く、後は俺に任せて後ろに下がれ。経験とレベル不足だ、こっから先は」
私の目の前に、アンさんが割り込む。
彼は鍔迫り合いをしていた、急に切り込んできたゴブリン・ジェネラルと。
楽しそうな笑みを浮かべ、斬り合おうとしていた。
「さぁ、久々に本気を出すか」
その言葉は、何処までも何処までも。
このゲームを、心底から楽しんでいる声だった。
* * *
アンノウン、そう言われた男は剣を弾き距離を取る。
低レベル、現状の強さは然程ではない。
大規模な魔物の集落を壊滅させても、もはやレベルは一つも上がら無いくせにだ。
「さぁ、久々に本気を出すか」
男は剣を構え、息を整える。
凡ゆる武術には型があり形がある、ソレは先人が血涙を流し積み上げた道。
彼もまた、その道を理解し歩む。
「『八極剣』」
スキルを変則的に使用し、『八極拳』の変質進化スキルを発動した。
エフェクトが彼を包み、攻撃力を上昇させる。
次の瞬間、ゴブリン・ジェネラルの。
「ゴブリン・ジェネラルから進化したな? カースド・ゴブリン・ジェネラル、か」
カースド・ゴブリン・ジェネラルの一撃が、地面を抉る。
飛び散る砂塵を頬に受けつつ、対してアンノウンも地面を踏み締めた。
剣が交差する、アンノウンがやや押される。
技も技術もアンノウンが高い、少なくとも傍目で見ていた彼女はそう認識していた。
では何故押されている? 結論は単調だ、攻撃力で劣っているため。
攻撃力が低いからこそ、攻撃能力も低い。
もっとわかりやすく言えば、パワーこそ
半端なプレイヤーの攻撃力では、ただでさえ上位化したモンスターの。
その上で特殊進化までしているカースド・ゴブリン・ジェネラルの攻撃を凌げるわけがない。
正面対決は不利、形成は悪い、攻撃力の不足は致命的。
だがまぁ、負けるわけもない。
「『エンチャント:両腕、両足、胴体』『特性付与:闇』」
攻撃力で劣るのならば、属性攻撃力で対応しよう。
剣を即座に逆手に持ち替え、四肢をしなやかに動かすと共に前方一歩踏み出せばそのまま体重をかけて剣を落とさせる。
最もジェネラルとてそう簡単には剣を落とさ無い、だが然程の問題もない。
狙っていたのは、大きな隙だ。
「『ダークバレット』」
狙うは頭部、穿つは弾丸。
黒き弾が虚空を描き、魔法が放たれる。
脳震盪を誘発する、続け様に剣を投げつけ拳を振るう。
剣が落下する、奇怪な軌道を描けば流れるように剣が手に収まりそのまま斬撃を形作る。
さながら、ソレは極まった戦闘技法のように。
「す、すごい……」
超越とは謂わば曲芸だ、誰も理解も理知も示せ無いからこそ芸術を見出す。
だからこそピカソが描いた名画が称され、名すら知られぬ凡才の描が酷く下されるのだ。
だからこそ極まったソレを見ても安直な感想しか出せ無い、すごいという安直に過ぎる感想を。
「倒してしまっても、構わんのだろ? ってな」
そのまま、彼はゴブリン・ジェネラルの喉元を貫く。
血が滴り、ポタポタと垂れる血潮が剣を濡らす。
だがソレもしばらくの間だけ、すぐにポリゴン片に変換され代わりに現れたのは呪われたボロボロの剣だけだ。
「ドロップ品は……、うーん。ショッペェな、そっちは要るか?」
「あ、良ければぜひ」
その返答を聞くや否や、剣を拾ってそのまま雑に投げ渡す。
彼女は慌ててソレを拾うと、そのままダンジョンの入り口に戻る彼の姿を見た。
まだ周回するらしい、随分と熱心なことだ。
「あ、あの!! 今日はありがとうございました!!」
「別にいいよ、この程度は」
その言葉を言い終われば、そのまま彼の姿は消えていく。
彼女も少し立ち尽くした後に、少し遅れて彼とは別の道を歩き始めた。
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