赫影インテリジェンス

月坂胃蕪

File.0 馬鹿とヒーローは紙一重

 ある日の夕方。

 炭酸をこよなく愛する男子高校生―――真澄透ますみとおるは、今日も、炭酸飲料を愛でていた。

「はあ~、やっぱり学校帰りの一本はこれだよなあ」

 丁寧に缶のプルタブを引くと、プシュッと楽しげな音がこぼれる。そのまま一気に飲み干し、自販機横の空き缶・ペットボトル用ごみ箱へ投入。ここまでが、炭酸愛好家の儀式だ。



―――最高の気分で家路についていた、その時。



「やめてください!!!誰か、助けて!!!」

女性の悲鳴。

聞こえた方向に目を向けると、悪そうな奴が、拳銃を片手に若い女性を追い詰めていた。


「......は?」

テレビ画面越しにしか見たことがない場面を目の当たりにして、困惑する透。

しかし、次の瞬間には、透の足は数歩前へ飛び出していた。


「何てことしてんだよ......!?」


恐れより、怒りと正義感が勝った。

相手は片手に拳銃、自分は背中にリュックサック。


悪そうな奴の顔面を思い切り殴った。

ドゴッ、バキッ、と激しい殴打音が響く。


しばらく怒りのままに殴りまくったあと、透は肩で息をしながら、落ち着きを取り戻す。


悪そうな奴は、呻き声を上げて地面に倒れこんでいた。

女性は、唖然として、悪そうな奴と透を交互に見つめる。


「......はあ、マジでムカつくわ。女の人に手を出す奴が一番許せねえ」

何事もなかったかのように、背伸びをしてのんびりと家路につく透。


「......あ、ありがとうございます!」

悪そうな奴に襲われかけていた女性が、透に慌てて声をかける、


「いえいえ」

振り返って軽く会釈し、透は歩き出す。




「君、名前は?」

突然、男性の声に呼び止められた。


「はい?......誰っすか??」

面識のない人物に声をかけられ、『しらないひとにはついていかない』の精神に則って、透は警戒心を露わにする。





伏見廻ふしみかい。......スカウト、とでも言うべきか」



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