カセットテープ
ヤマ
カセットテープ
オーディオプレーヤーにカセットテープをセットし、再生ボタンを押した。
*
「さよなら。好きだったよ」
遠ざかっていく姿に、僕は言った。
愛する人と、結ばれることになった彼女。
好きな人ができた、と頬を染めながら言った彼女。
ずっと一緒だった彼女。
「また、僕の名を呼んでくれるのでは」と、淡く、儚く、夢を見ていた。
そう思っていたことすら、もう遠い。
最後くらいは——ちゃんと顔を見て、送り出したかった。
彼女の長い髪が、風でふわりと舞い上がる。
小石が転がる、乾いた音が、耳に残った。
彼女への気持ちを、精一杯込めて。
優しく、彼女に手を伸ばす。
まるで、まだ何かが繋がっていると錯覚させるように。
並んで立つと、夕暮れが、二人の影を長く引き伸ばした。
高台の端。
子供の頃、よく一緒に遊んだ場所。
久しぶりにここへ来ようと、僕から誘った。
あの日の笑い声が、まだ残っている気がして。
僕を見て、彼女が微笑む。
後悔はない——そう、思い込もうとしている自分がいた。
*
そして、B面が再生される。
カセットテープ ヤマ @ymhr0926
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