カセットテープ

ヤマ

カセットテープ

 オーディオプレーヤーにカセットテープをセットし、再生ボタンを押した。









「さよなら。好きだったよ」


 遠ざかっていく姿に、僕は言った。



 愛する人と、結ばれることになった彼女。


 好きな人ができた、と頬を染めながら言った彼女。


 ずっと一緒だった彼女。



 「また、僕の名を呼んでくれるのでは」と、淡く、儚く、夢を見ていた。


 そう思っていたことすら、もう遠い。


 最後くらいは——ちゃんと顔を見て、送り出したかった。



 彼女の長い髪が、風でふわりと舞い上がる。


 小石が転がる、乾いた音が、耳に残った。



 彼女への気持ちを、精一杯込めて。


 優しく、彼女に手を伸ばす。


 まるで、まだ何かが繋がっていると錯覚させるように。


 並んで立つと、夕暮れが、二人の影を長く引き伸ばした。



 高台の端。



 子供の頃、よく一緒に遊んだ場所。


 久しぶりにここへ来ようと、僕から誘った。


 あの日の笑い声が、まだ残っている気がして。



 僕を見て、彼女が微笑む。



 後悔はない——そう、思い込もうとしている自分がいた。





 *





 そして、が再生される。

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カセットテープ ヤマ @ymhr0926

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