三話 戦争のために造られた子供③
「おじさん、レンジャー資格、パラシュート降下、水泳、なんでも資格持ってるんだってね」
にこやかに笑いながら、女の子の方が言った。さながら向日葵のような快活な笑顔だった。
「ねぇ、私たちと勝負しない? ルールは簡単、どちらかが倒れて意識不明になるか、まいったって言わせた方が勝ち」
「はっ? いきなり何を言い出すんだ?」
そんな無意味なこと、する必要が有るのだろうかと訊き返して、次に男の子の方が口を開く。
「アンタ、自衛軍のエリートなんだろ。なら、戦って判断しろよ。俺たちが本当に子供なのかどうか」
まるでこちらの意図が筒抜けなのかと思うくらいの発言に、一樹は駒利の顔を見る。
彼女は涼しい顔をしながら、笑っていた。
「言いましたわよね彼らは商品だと。なら、それを上手く使いこなしてクライアントに届けるのが貴方の仕事でもありますわ。なのに、商品の性能を知らないなんて、お話にならないでしょう?」
だからここで闘ってみせろと、彼女はそう言っているのか?
訝しみ、何もしない一樹に痺れを切らせたのか、最初に手を出して来たのは少女だった。
的確に首元の急所を狙って来る打突に、反射的に腕を取り、組み敷く。
けれど微かな違和感に、一樹は飛び起き距離を取ってしまった。
なんだ、今の感触は……?
およそ人体に触れた時とは違う触り心地だった。服の上から腕を捻り上げた感覚が重く、まるで金属の塊を相手にした時のような、硬さを感じた。
「言い忘れていましたわ。我が部の商品、それは…………」
不敵に笑う駒利に、一樹の脳内でも共通の回答が浮かぶ。
「サイボーグかっ!?」
実用化されそうで有ると言う情報も、確かに耳にはしていたが。
「実戦投入されたなんて話、聞いてない!」
言うが早いか、もう一度のし掛かろうとしたのは、単純な腕力では太刀打ちできないと判断してのことだった。
相手が例え機械の体をしていた所で、関節の動きは人間のソレと対して違いはないはずで、故に動きを封じるための行動だった。
しかし、
「ぐっ……くっっっッ!」
一樹の動きよりも早く、起き上がった少女に背後に周られ、首を締め上げられる。
呼吸を封じられ、完全にキメられた状態に、振り解こうともがくものの、体重自体、男のモノより全然違う。人間の重さじゃないぞこれ……!?
なす術もなく、一樹は掠れた声で「まいった」と、負けを認めざるを得なかった。
なるほどこれは、確かに骨が折れる仕事のようだと。薄れゆく意識の中で、何も教えてくれなかった陽一陸将への悪態が自然と湧き上がってくるのを感じ、
「へへっ、今回の人はなかなかいい動きでしたね駒利部長」
嬉しそうに笑う少女の声が、いつまでも耳に残っていた。
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