最強のSSRは、実在した幼なじみだった


ここに集まる人達のように、大量の汗を流すラムネを呷る

さっきまで、秘境の湧き水のように爽やかだった甘みが、

今は踏み入れた者を決して逃さない沼地のように、舌にまとわりついた


「焼きそば一つ」


ソースと油が織りなす、香ばしくも魅惑的な香りが、焼きそばの気分にさせる

口の中でなお暴れる甘みが、伴侶求める暴君に感じさせた


野良猫が、鉄板で咲く小さな花火を憎き羽虫を退治するように、双刃を構え追撃している

鬼神の如し形相は、彼もまた小さな虎で有ることを物語っている


花火の中に新たな色が混ざる

地面に落ちたマヨネーズだったものを不思議そうに手で確かめる


彼の左手は刃を治め、魅惑のぬめりを恐る恐るなでつけていた


地を這う一瞬のどよめき


微かに燦めく星星を押しのけるように、今日の主役が漆黒の舞台に降り立った

炎色反応が織りなす七色に燦めく、至高の造花


夏に咲く最も人気の花が一斉に産声を上げた


「あっ、恋枚くん。やっほーっ」


小さく手を振る彼女は地上に添えられた一輪の花


彼女は野草ではなく、野花だったのだ


昇る血圧と、花火の音が連動したような気がした















俺には特殊技能がある


同年代限定だが、関わる女性のランクが見えるのだ


グレードは主に 《コモン》《ノーマル》《エース》《レア》《スーパーレア》こんな感じだ


そして、俺には幼稚園らいの幼馴染がいる


初めて会った時は《ノーマル》だった、毎日顔を合わせていたから間違いない


そんな幼馴染とも、中学に上がる頃に疎遠になってしまった


高校二年の普通の日だ


日直として、黒板のいつまでも消えないチョークの跡を、宇宙を見つめる猫の様に消していた時だった


「ねぇ、恋枚くん。 きみ、夏目さんと付き合ってるってほんと?」


背中越しに聞こえた、懐かしい声に車のワイパーになっていた腕が止まる


「……その声は、美結かな…ははは」


覗き見るように彼女の顔を伺う


二列目の、確か梶くんの席に頬杖をついて、俺の背を見つめる幼馴染の姿があった


「覚えててくれたんだね……てっきり、あの時の約束ごと忘れてしまったと思っていたけど」


穏やかな声だった、しかしそれが肉になる直前の家畜の気分にさせるのは、俺の被害妄想なのか


「恋枚くんはさぁ、夏目さんと何処で知り合ったの?」


これは、久しぶりに会った幼馴染との、世間話そう言い聞かせ努めて冷静に、話す


「元々、一年の時に隣の席だったんだ」


「それで、夏祭りの日に、たまたま合ってね…」


「ふーん、浴衣が可愛かったんだ」


俺の言葉を先回りして言われた


「あ…あぁ、うん、そんな感じで」


「夏目さんのレアリティってさぁ、何なの?」


「え?」


思わず振り向き、彼女の顔を見てしまう


彼女の頭上に浮かぶレアリティを見て我が目を疑った


《SSR》


いや、何だよそれ!


SRが一番上じゃなかったのか!?


彼女の、どこか艶のある笑みが、俺の動揺に拍車をかけていた










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