第6話 早くも疑われそうになる

「ど、どうしよう……」


 あれから何日か経過し、支払い期日に指定された月末が刻一刻と迫ってきた。


 当然払える当てはなく、このままだと俺が殺害を依頼した三人はあのおっさんに……。


 いや、所詮は俺をイジメていたクズ達なんでどうでもいいと思いたいが、前みたいに無関係な人間まで巻き込まれたりしたら……。


 なんて考えが何度も何度も頭を巡るが、あのおっさんに電話やメールをしても一向に返信がなく、あいつの名前も住所も何もわからないので、打つ手がない状態だった。



 ピンポーン。


「はーい」


 悶々としている間に呼び鈴が鳴り、お袋が出る。


 誰が来たか知らないが、


「か、和彦」


「なに?」


「今、警察が来てるんだけど、あんたに話があるって……」


「えっ!? け、警察って……」 


 まさか、俺の事がもう?


 ど、どうしよう……いまから、逃げようにも……


 いや、俺はそもそも手は出してないんだ。




「は、はい……」


「田町和彦さんですね。急にすみません。ちょっと田町さんにお聞きしたい事がありまして」


「はあ……」


 玄関に向かうと三十代くるいの男の警察官が二人、玄関におり、手帳を見せる。


「田町さん、この方はご存知ですか?」


 警官が男が映った一枚の写真を見せる。


 恐らく免許の証明写真か何かなんだろうが、こいつは……。。


「久保山徹さん……ご存知でしょうか? あなたと同じ中学だったそうですが」


「あ、はい。テニス部の先輩で……」


「そうですか。久保山さんが先日、何者かに殺害されたというニュースはご存知で?」


「ええ。ニュースで見て、ビックリしまして」


 や、やべえ。やっぱり、事件の事を聞いてきた。


 どうしよう? いや、動揺するな……まさか、俺が犯人だとは思ってないだろうよ。




「彼は今月の四日の夜、十時ごろに会社からの帰宅途中に何者かに散弾銃のようなもので撃たれて亡くなっているのですが……失礼ですが、田町さん、その日は何処で何をしていましたか?」


「よく覚えてはいないですけど、家に居たと思います」


「なるほど。ご職業は何ですか?」


「しゅ、就職活動中っていうか……今、無職で……」


 ううう……事情聴取とはいえ、無職っていうのは凄くきつい。


 絶対これだけで怪しまれているが、嘘をつくと余計に変に思われそうなので、素直に言うしかなかった。




「ふーむ……久保山さんとは現在、何か交流はありましたか?」


「ありません。先輩が卒業してからは全く」


「連絡も取ってない?」


「はい」


「当時、彼に何かトラブルがあったとかそんな話はありますかね?」


「き、聞いたことないです……」


 俺にボールをぶつけてきたり、イジメていたことを言ってやろうかと思ったが、そんな事を言えば絶対に怪しまれるので敢えて言うことはあるまいて。




「わかりました。次はこの方についてお聞きしたいのですが……」


 俺の言っていることを警官がバインダーに乗せた紙にメモしていくと、また一枚の写真を見せる。


 今度は女の写真……免許の証明写真みたいだが、見ただけですぐにわかった。


「この女性はご存知ですか?」


「ええ。中学の時、同じクラスだった駒木さんですかね」


「実は彼女も事件に巻き込まれてお亡くなりになっているんですが、ご存知で?」


「は、はい……ニュースで見ました」


「なるほど。彼女とは現在、何か交流は?」


「ありません。連絡も取ってないですし、当時も別に仲良かったわけじゃないので……」


「はいはい……駒木さんは七日の夜に何者かに暴行を受けて、殺害されているのですが……失礼ですが、その日、何をしていましたか?」


「家に居ました」


 案の定、駒木の事も聞かれたが、俺は嘘は付いていない。


 久保山も駒木も、そしてこの後聞かれるであろう小湊も交流なんかまったくないし、連絡も取ってないのだ。




「彼女にトラブルがあったとかそんな話はありますかね?」


「よく……わからないです。あまり、話もしてないので……」


「わかりました。うーん……」


 警官も俺が言ったことをメモしながら、頭を抱える。


 別に怪しいことは言ってないよな?


 恐らく他のクラスメイトにも話は聞いているだろうが、同級生には恐らく犯人はいないので、ここを調べてもあのおっさんには辿り着けないはずだ。




「ありがとうございます。最後にもう一件……この人、知っていますよね?」


 そして警官がまた一枚の写真を見せると、案の定、小湊の事を聞いてきた。


「はい。同じクラスの……」


「そうですか。実はあなたと同じ中学の出身者が立て続けに事件に巻き込まれているんですよ。小湊さんは自宅が火事になって、奥さんや小さなお子さんと一緒に亡くなっていたんです。現場を調べたら、放火の疑いが濃厚ということで捜査しているんですが……彼について何かご存知ですか?」


「いえ。彼とも仲良かったわけではないので」


「話もしていない?」


「あまり……」


「ふむ。事件は十一日の夜中に起きているんですが、その日は何をしていたか覚えていますか?」


「は、はあ……えっと……い、家に居ました」


「ご自宅に」


「はい」


「外出はしていない?」


「ええ……記憶曖昧ですけど、多分……」


 とっさにそう答えてしまったが、警官がいぶかし気な顔をしたので、ドキっとしてしまう。


 あの日は確か俺も現場に……い、いや、火は点けていないぞ。


 家に放火しろとも言ってないんだし、あいつが勝手にやったことなんだ。




「はい……小湊さんにトラブルの話とか聞いてないですかね? 何でも結構です」


「いえ、わからないです」


「本当に? うーん……はい、わかりました。ご協力ありがとうございました。事件について、何か気になることがあったら、こちらにご連絡願いますか。どんな些細なことでも結構ですので」


「は、はい」


 ようやく聞き込みが終わり、警官が連絡先が書かれた名刺を一枚渡してきたので、それを受け取り、警官も家を後にした。




「はああ……疲れた」


 生きた心地がしなかったが、取り敢えずこの場は乗り切ったか……。


 俺の事を怪しんでいるのかな? 警官たちの様子からはそんなそぶりは感じられなかったが……。


「ねえ、和彦」


「何だよ」


「今、聞いたんだけど、小湊君だっけ? その子の事件、十一日の夜よね? その日の夜、あんた大野君と一緒にどこかに行ってなかった?」


「えっ!?」


 お袋が傍で聞いていたみたいだったが、まさかそんなことを覚えていたとは……。




「そ、そうだった?」


「そうよ。いきなり夜中に出かけたから、何かと思って……あんた、いいの? 警察に嘘をついて……」


「う、嘘じゃないよ! ド忘れしたんだよ!」


 と、咄嗟に大声で張り上げたが、やべえ……あの時、小湊の家に行ったことがバレたら……いや、俺は別に火は点けてないんだ。


 で、でも……いや、確か近くにいた野次馬に話しかけちまったんだ。


夜中だったし、俺の事なんか覚えてないと思うが……。


「そ、そう。でも、だったらすぐに警察に言った方が……」


「後で言うよ! 別に何もしてないし!」


 と叫んで、二階にある自室に駆け込む。くそ、早くもヤバイことに……どうしよう?


 捕まったら死刑になってしまうかと思うと、もう気が狂いそうになってしまい、とても夜も寝れそうになかった。


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