四人目 ~優しさに潜む影~


🎬


 つらいこと、傷ついたことがあるから人は優しくなれる。

 そんなフレーズを聞いたことがないだろうか?

 裏を返せば、優しい人こそつらい過去をたくさん背負ってきたということだ。


 僕は君の優しさとその才能をあてにしていた。

 なにしろ君はダイヤの原石なんてものじゃなく、すでに磨き上げられていた。その輝きは圧倒的で、美しくて、他の存在をまるで寄せ付けなかった。僕がその輝きを目にしたのは一度きりだったけれど、今でもはっきりと脳裏に焼き付いていた。


「ああ、それは過去の話だよ。もうやめたんだ」

 君はかつてのように優しい笑顔でそう答えた。

「どうして辞めちゃったんだよ? あんなにすごかったのに」

「うーん、なんかうまく言えないけど、息苦しくなったんだよねぇ」


 その言葉がチクリと僕の胸を刺す。

 僕はゆっくりと息を吐く。

 いよいよ過去と対面しなきゃならない時が来たのを知る。


「……それは僕のせいだったんだよね?」


  

 優しい君は何も言わない。

 何も言わずに遠くを、僕達の過去を見つめる。


 君が選ばれて僕は選ばれなかった。

 そんなことがあった。

 そして選ばれなかった僕は悔しくて悲しくて泣いてしまったのだ。


 それからしばらくして、君はその才能を隠してしまった。

 僕の前から、みんなの前から、すっかり隠してしまった。

 やがて君自身も僕たちの前から去ってしまった。


 「君のせいじゃないよ。誰のせいでもないんだ。うぬぼれるわけじゃないけどさ、強すぎる光って、それだけ濃い影を作るんだ。誰かが勝てば誰かが負ける。誰かが笑えば誰かが泣いている」


 ほらね、というように君は指をまげて犬の影絵を地面に落とした。

 その口が開いて「ワンワン」と悲しそうに吠えてみせた。


「そういうのがダメなんだよ。勝負事とかそういうのに向いてなかったんだよ。友達を失うことの方が僕にはよほど嫌なことだったんだ、それだけのことさ」

「……謝るようなことじゃないんだろうね」

「そういうこと。どうせだったら楽しんだ方がみんな幸せになれるだろう?」


 でも。

 それでも僕はやっぱり諦められないのだ。

 君のことでもあるけれど、僕自身のことでもある。

 

 僕はもう一度君の隣に立ちたいんだ。

 もう一度君との縁をつなぎたいんだ。


 そうしたら、君の隣で、今度こそ……



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