四人目 ~優しさに潜む影~
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つらいこと、傷ついたことがあるから人は優しくなれる。
そんなフレーズを聞いたことがないだろうか?
裏を返せば、優しい人こそつらい過去をたくさん背負ってきたということだ。
僕は君の優しさとその才能をあてにしていた。
なにしろ君はダイヤの原石なんてものじゃなく、すでに磨き上げられていた。その輝きは圧倒的で、美しくて、他の存在をまるで寄せ付けなかった。僕がその輝きを目にしたのは一度きりだったけれど、今でもはっきりと脳裏に焼き付いていた。
「ああ、それは過去の話だよ。もうやめたんだ」
君はかつてのように優しい笑顔でそう答えた。
「どうして辞めちゃったんだよ? あんなにすごかったのに」
「うーん、なんかうまく言えないけど、息苦しくなったんだよねぇ」
その言葉がチクリと僕の胸を刺す。
僕はゆっくりと息を吐く。
いよいよ過去と対面しなきゃならない時が来たのを知る。
「……それは僕のせいだったんだよね?」
優しい君は何も言わない。
何も言わずに遠くを、僕達の過去を見つめる。
君が選ばれて僕は選ばれなかった。
そんなことがあった。
そして選ばれなかった僕は悔しくて悲しくて泣いてしまったのだ。
それからしばらくして、君はその才能を隠してしまった。
僕の前から、みんなの前から、すっかり隠してしまった。
やがて君自身も僕たちの前から去ってしまった。
「君のせいじゃないよ。誰のせいでもないんだ。うぬぼれるわけじゃないけどさ、強すぎる光って、それだけ濃い影を作るんだ。誰かが勝てば誰かが負ける。誰かが笑えば誰かが泣いている」
ほらね、というように君は指をまげて犬の影絵を地面に落とした。
その口が開いて「ワンワン」と悲しそうに吠えてみせた。
「そういうのがダメなんだよ。勝負事とかそういうのに向いてなかったんだよ。友達を失うことの方が僕にはよほど嫌なことだったんだ、それだけのことさ」
「……謝るようなことじゃないんだろうね」
「そういうこと。どうせだったら楽しんだ方がみんな幸せになれるだろう?」
でも。
それでも僕はやっぱり諦められないのだ。
君のことでもあるけれど、僕自身のことでもある。
僕はもう一度君の隣に立ちたいんだ。
もう一度君との縁をつなぎたいんだ。
そうしたら、君の隣で、今度こそ……
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