三人目 〜天才ゆえの悩み〜
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明るい悩みってのはなかなか厄介だ。
軽いようでいて、その根は意外に深い。
僕は君と出会ってそれをまざまざと感じた。
「天才と秀才の違いって何だと思う?」とは君からの質問。
「天才は努力しなくてもできちゃう人、秀才は努力して成し遂げる人、かな?」
僕の答えは、まぁ一般的なものだと思うんだが。
「そこまではよく言われていること。でももう一段奥があるんだな」
指を振り、チッチと舌打ちしながら楽しそうに答える。
「……本当の天才ってのは才能の土台があって人並み以上に努力できる奴のこと」
「じゃあ秀才は?」
「天才には絶対に勝てない奴のこと。まぁアタシがそう。自分で秀才って言っちゃってるのは痛いけどね」
君はあっけらかんとそう言うけれど、僕にはそれがなんだか悲しい。
僕が知っている君は昔から何をやってもうまかった。勉強はたいしてしてる様子もないのに楽々トップだったし、スポーツだって部活に入ってる子たちよりもうまかった。歌もうまいし、楽器もひけた、絵だって上手だった。君は僕が初めて知る天才そのものだったのだ。
(だったらもっと努力すればよかったじゃないか)
そんな風に言いたかった。
(君は秀才じゃないよ、りっぱな天才じゃないか)
そうはっきりと言ってやりたかった。
でもその言葉が君にとって重荷にしてかならないのは目に見えていた。
いったい君に何があったんだ?
君の自信を根こそぎ奪っちゃうような、どんな出来事があったんだ?
「……どうしても君に協力してほしいんだよ」
「あきらめて。てかさ、熱くなりすぎ。もっと気楽にいきなよ。てっぺん取れない努力ならしないほうがいい、楽しみたいならほどほどにしとかなきゃ。これ、アタシからの真面目な忠告」
ああ、何と言って君を引き留めればいいかわからない。
僕はへんな悔しさにこぶしをギュッと握りしめる。
君はもっともっと高く飛べる人なのに。
「でもさ、誘ってくれたのはうれしかったよ。それじゃ!」
君は何でもないことのように飄々として、誰からも好かれるさわやかな笑顔を残して、ひらひらと手を振って去ってゆく。
君は良い奴のままだ。
そこだけは変わらない。
変わらないけど……やっぱり僕は君に変わってほしい。
だって僕はヒーローの登場をずっと待っていたんだから。
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