第12話 囚われの温もり

扉が閉ざされてから、どれくらいの時間が経ったのだろう。

部屋の中は静まり返り、窓から差し込む夕陽が赤く床を染めている。


紗羅はベッドの端に座ったまま、抱きしめられた余韻をまだ胸の奥に感じていた。

あの強引な腕の力も、耳元で震えた声も、そして唇の感触も。


「……怖いなんて言ってたよね」


思わず小さくつぶやく。

あの絶対的な王の姿からは想像できなかった弱さ。

それを見た瞬間、心が揺れてしまったのは事実だった。


ガチャ、と鍵の音がして、レオンが戻ってくる。

彼はいつもと同じ完璧な姿なのに、目だけは不安そうに揺れていた。


「……怒っているか?」

「んー……少し、かな」


腕を組んで睨むと、レオンはほんの僅か眉を下げる。

その仕草があまりに人間くさくて、思わず笑いそうになった。


「ごめん。君を閉じ込めるなんて、王としては恥ずべき行為かもしれない」

「じゃあ、やめてくれる?」

「……君を失うくらいなら、やめられない」


即答だった。

呆れ半分、胸の奥がじんとするのが半分。


レオンはベッドの横に腰を下ろすと、ためらいがちに紗羅の手を取った。

「紗羅。俺は、誰にも君を渡したくない」


その言葉に、紗羅は少しだけ息を呑む。

重い、でも真っ直ぐすぎる。


「……束縛されるのは嫌だけど、怖いって言われたの、なんか……」

「なんか?」

「……ちょっと、嬉しかった」


自分でも不思議だった。

彼の独占欲が強すぎて困るはずなのに、その裏に隠れていた不安や脆さを知ると、どうしてか愛おしく思えてしまう。


レオンの瞳が驚いたように揺れ、次の瞬間には柔らかな微笑みを浮かべていた。

「君は……本当に俺を惑わせる」


そのまま引き寄せられ、背中に腕が回る。

今度の抱擁は先ほどのような支配ではなく、ただの温もりだった。


胸に顔を埋められ、金の髪が頬に触れる。

その柔らかさに、紗羅はふっと笑ってしまった。


「何がおかしい?」

「レオンがこうやって普通に抱きしめてるの、ちょっと意外で」

「君を強く抱きしめすぎたくない。ただ……ここにいてほしいだけだ」


その声は甘くて、危険なほど心をとろかす。

逃げたいはずなのに、気づけば自分からも腕を回していた。


――私は、この人のことを少しずつ知ってしまっている。

――それが怖いのに、嬉しいなんて。


夕陽が沈み、二人を包む影はゆっくりと夜に溶けていった。

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