第6話 抗う心と、絡みつく影

――もう限界かもしれない。


紗羅は心の中でそう呟いた。

閉ざされた城、閉ざされた空。

そして何より、レオンの視線。


朝も昼も夜も、いつだって彼は傍にいる。

優しく微笑むときもあるけれど、その裏にあるのは狂気にも似た独占欲。


「……私、外に出たい」


気づけば口から漏れていた。

窓の向こう、風に揺れる緑を見ながら。


「またその言葉か」


背後から声が落ちた瞬間、全身が凍りつく。

ゆっくり振り返ると、そこに立つレオンの瞳が金色にぎらついていた。


「君は俺を試しているのか?」

「違う。ただ……息が詰まるの」

「息が詰まるなら、俺が吸わせてやる」


レオンは一歩で距離を詰め、紗羅の顎を掴む。

吐息が触れ合う距離。

その瞳は恐ろしいほど真剣で、逃げ道を許さなかった。


「……っ」

「紗羅。君は外を望むな。望むたびに、俺は壊れる」


低い囁きが耳を焼くように響く。

胸の奥が熱くなり、怖いはずなのに震えるのは恐怖だけじゃなかった。


「でも――」

勇気を振り絞り、紗羅は彼の手を払いのける。

「でも、私は人間だよ! 風も光も自由も、全部欲しいの!」


叫びは城の石壁に反響し、重苦しい空気を揺らした。


――次の瞬間。


レオンの腕が鋭く伸び、紗羅を抱きすくめた。

まるで獲物を逃がさぬ獣のように。


「自由より俺を選べ」

「……無理だよ、そんなの……」

「無理ではない」


声が揺るぎなく響く。

「紗羅。君は俺のものだ。城より広い世界も、空より高い自由も、全部捨てていい。

――俺だけを見ろ」


言葉は呪いのように重く絡みつき、胸を締め付けた。

涙が滲みそうになる。

でも、どこかで心臓が熱く跳ねているのを自覚してしまう。


――なぜこんなに怖いのに、惹かれてしまうんだろう。


その瞬間、再び奥から響く唸り声。

今度ははっきりと地を揺らすほど大きかった。


紗羅が震えながら視線を上げると、レオンは彼女をさらに強く抱き寄せる。


「見なくていい」

「でも、あの声……」

「俺が傍にいる。それ以上、君に必要なものはない」


彼の囁きは、甘く、重く、檻より強い。

抗うほどに、心はさらに絡め取られていった。

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