陰キャだった俺が、異世界で“異常”と“最強”を巡る話

風見莉乃

プロローグ「選ばれなかった“陰の者”」

――『君たちは“選ばれし勇者”…ではない』


その言葉は、あまりにも唐突で、そして冷酷だった。


まるで見下すように告げられたその宣言に、高校の下校中だった六人はただ呆然とするしかなかった。


※ ※ ※


日が落ちかけた街角。赤信号で立ち止まっていた六人の高校生たちは、突如として異世界へと転移させられた。


現れたのは、重厚な石造りの玉座の間。異様な空気が張り詰め、天井から差し込む光さえ冷たく感じられる空間。荘厳な雰囲気の中、玉座に腰掛ける壮年の王と、その脇に控える魔導師風の男が彼らを迎えた。


そして、冒頭の言葉――。


「この中で“選ばれし者”は――東条 光牙(とうじょう こうが)、春日 凛(かすが りん)、綾瀬 葵(あやせ あおい)の三名。残りの者は役に立たん。よってここで解放する」


選ばれた三人の顔が驚きと喜びに染まる一方、残された三人は、まるで透明人間のように扱われた。


神谷 蓮(かみや れん)は、その中の一人だった。


黒髪に切れ長の目、無表情気味で近寄りがたい強面――教室では常に孤立し、「陰キャ」として疎まれていた存在。


「……あの、待ってください! どうして――!」


真宮 紗月(まみや さつき)が声を上げた。黒髪ロングに清楚な制服姿の彼女は、昔は蓮とよく話していた幼なじみ。


その隣には、白髪と褐色肌が目を引く白ギャル――水瀬 美月(みなせ みづき)の姿もあった。蓮とはそこまで親しくなかったが、紗月と仲が良く、自然と行動を共にしている。


だが、王は表情一つ変えず、冷たく告げた。


「そなたらは無能と見なされた。これ以上この場に立つ資格はない」


蓮たちはそのまま転移させられた。地図も道案内もない、魔物がうごめく荒野の外れに。


※ ※ ※


「……くそが。ほんと、どうしようもねぇな」


蓮がぼそりと呟く。夜の冷気が肌を刺し、焚き火の炎がゆらりと揺れる。


彼の背中には、ひと目で分かるほどの“異質”な剣があった。装飾はなく、しかし無骨な迫力を持ったそれは、まるで“戦いの象徴”のようだった。


誰にも気づかれず、誰にも頼られず――


けれど、その剣の持ち主は既に決意していた。


(この世界が俺たちを“不要”と断じるなら――その価値観ごと、覆してやる)


誰にも見られぬ場所で、“選ばれなかった陰の者”が静かに、しかし確かに歩き出す。


――これは、陰キャでモブ扱いだった少年が、異世界で“世界の歪み”に抗う物語。


そして、運命に選ばれるよりも、自らの意思で立ち上がった者の、逆転の軌跡である。

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