異世界巫女はVtuberになりました。~除霊で登録者100万人目指します~

鍵谷端哉

第1話 巫女と丑三つ時と、登録者2人の除霊配信が始まった件

「丑三つ時にこんばんは! 異世界巫女Vtuberルーナちゃんだよ!」


 深夜2時、郊外の廃病院──ガチの心霊スポットでの動画配信。

 視聴者数は驚愕の2人。『巫女ちゃんねる』の登録数はなんと――99人。


 そんな俺たちは登録者数100万人へチャレンジ中なのだ。

 

 視聴者は無謀、ムリゲー、詰みゲーと思うだろう。

 けど、やるしかない。カメラ兼マネージャーの俺が導いて見せる。


 それは俺の小学校入学時からの夢――『友達100人できるかな?』計画達成のため!


 うおおおお!

 やってやる! やってやるぞぉ!

 俺は友達作って、ボッチ生活から一気に勝ち組――大学の陽キャカーストトップに転生だ!


 そしてこれは、異世界から来たルーナを元の世界に帰すためでもある。

 たった一人でこの世界に来てしまったルーナ。

 そんな孤独な状態のルーナが、かつての自分と重なってしまう。


 あのとき、誰かが俺に手を差し伸ばしてくれていれば……なんて考えてしまう。

 だから今、俺がルーナに手を差し伸べているのだ。


 俺はリングライトで、孤独感など微塵も表に出していないルーナを照らす。


「むむ! 強い邪気を感じる。……そこの君! そう。君君。君だってば」


 ルーナが『神気』を通して、カメラの向こうの視聴者に語りかける。


 『確かに最近、夢遊病みたいな感覚になる時がある』『マジで?』『うん。当たってる』

 視聴者からそんなコメントが書き込まれた。 


「神環の巫女の私が、君の邪気を祓ってあげる!」


 異世界巫女であるルーナは、辺りに漂う『神気』というエネルギーを集めて術を使う。

 その術のひとつで、視聴者に憑いている邪気(幽霊)を引っこ抜く。画面越しに。

 それをここで祓うというわけだ。


 そういう術を使えるのが『神環の巫女』らしい。『神気』を使った術はほかにも色々あって、俺から見てもルーナはスゲー。


 ……けど、向こうの世界では落ちこぼれだって言われてたらしい。


 はー。やだやだ。俺、才能って言葉、嫌いなんだよね。

 努力が無駄だって言われてるみたいでさ。


「成功報酬はチャンネル登録と高評価で、よ、ろ、し、く、ね★」


 決め顔、決めポーズをするルーナ。


「あ、もし、裏切ったら悪霊を送り返すからね。――やられたらやり返す! 倍返しだ!」

「やめんか! それにネタが古い!」


 とはいえ、お祓いはサクッとできる、ノーリスクなわけじゃない。

 下手したら悪霊に襲われて、こっちが幽霊になる可能性だってある。

 だから、できるだけ大人しいやつで頼む。


 ルーナが某漫画の元気を集める技のように、両手を空に掲げる。

 するとオーブのような光の玉――『神気』が集まってきて、ルーナの体が淡く光り始めた。


「おりゃあ! 悪霊ゲットだぜ!」


 ルーナがカメラである俺の体に手を突っ込んだ。



 

 昼休みは教室の端でみんなのことを眺め、お誕生日会ではたくさんの御馳走の前で一人、膝を抱えていた俺。

 これはそんな俺が『友達』とはなんなのか、『孤独を癒す』には何が必要なのかを知る物語。

 そして人生の転換期、つまりはルーナと出会うことになったのはほんの数日前。

 人々が眠り、魑魅魍魎が活発に動き出す――丑三つ時のことだった。


 

 ***



「いちまーい、にまーい、さんまーい……。7枚足りない……」

「割り過ぎだ!」


 あ、しまった。


 思わず『女の幽霊』に突っ込んでしまった。


 だが幽霊は微動だにしない。

 無視してくれるのか――いや、んなわけなかった。


「一緒に来いやぁあああーーーー!!」

「ぎゃあああああああ!」


 突如、髪を振り乱して全力ダッシュしてくる。


 ちょ、おまっ! 地縛霊じゃないのかよ!? 

 行動範囲広すぎだっ!


 バイトで、目当ての弁当が売れ残っていてゲットできたから嬉しすぎて油断した。

 馬鹿かよ、俺は。

 よりによって、心霊スポットで有名な『お菊ちゃんの水飲み場』を通るなんて。

 霊感が強い俺は幽霊から見りゃ、レンチンで温まった豪華な弁当だ。


「待てやコラーーー!」


 まあ、世の中、良いことがあれば悪いことがあるものだ。


 弁当ゲットしたから幽霊に襲われる。

 ……良いことと悪いことのバランス――変じゃね?



 ***


 

 1時間後、無事に帰宅。


 いやー、まいったね。

 背後まで迫られたときは死を覚悟したぜ。

 ったく、なんでバイト終わりで幽霊に接客せにゃならんのだ。

 

 昔からこうだもんな。

 小学生のとき、仲良くしてた奴が実は幽霊で――知らないうちに生気を吸われてたことだってある。

 初めて友達ができたと思ったのに。今、思い出しても腹立たしい。


 ……もし、霊感が強くなかったら、友達がたくさんいたという世界線もあったんだろうか?


 なんて、今更だな。


 明日は1限目から講義だし、飯食ってさっさと寝ないと。


 って、弁当がない。

 どっかで落としたのか?

 しゃーない、カップ麺にするか。


 よし! それなら、推しであり、俺の2人目の『友達』であるVtuberの動画を見ながら食べよう!

 これで食べ飽きたカップ麺でも満足度3000倍だ。


 悪いことがあったから、いいことがあるはずだからな。

 今日は神回間違いなしのはずだ。


 推しのページを開くと新着動画が表示される。

 「お知らせ」という文字だけのサムネイル。


 ……嫌な予感。


 不安な気持ちを振り払い、再生ボタンを押す。

 すると、同時に推しの明るい声が響く。


「結婚するので引退しまーーーす!」


「ふざけんなァァァァーーーーー!!」


 いいことねーよ。

 災難続きじゃねーか!



 でもその夜。

 俺は今までのことなんて些細だったと思えるくらいの衝撃的なとんでもない動画に巻き込まれることになる。

 ――まさか、画面の向こうからVtuberが出てくるなんて。

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