このポーションは…
安部 真夜
危険なこ
「アリエル~!」
手を大きく振りながら一人の冒険者がこっちに向かってくる。
服装から察するにマーチャント――商人――であろう。
「何? きなこ」
「『きなこ』と呼ばないで! わたしは『危険なこ』!!」
ぷうっと膨れ上がる。
アリエルは彼女の膨れっ面を見るのが好きだ。
故郷に居る末の妹に面差しが似ているから。
「で。 きぃちゃんは何の用だったの?」
「あ。 これこれ」
そう言うとカートから重たそうな物を取り出した。
「鉄鉱石がたくさん」
「うん。 プパとか良く狩るし」
プパというのはモンスターの一種で、さなぎのモンスターだ。
羽化しなければじっとしていて動かないので、非力な冒険者や、ドロップする鉄鉱石目当てに狩られることが多い。
ちなみに羽化した瞬間、クリィミィーという蝶のモンスターになり、非力な冒険者は一発で倒されるという曰く付きのモンスターだったりする。
「きぃちゃんは将来何になるの?」
隣に座ったきなこに話しかける。
「う~ん、まだ決めてなくって、一生商人で良いかなぁ? なんて思ってるんだ」
おでこを出したさらさらのロングヘアー―――リボンのヘアバンドでまとめている―――を弄りながらそう言う。
「お姉ちゃんが取ってきた収拾品をお店に出すのも楽しいし」
「そっか。
…アルケミストとかきぃちゃんに似合うんじゃない? 制服も可愛いし」
アリエルは道を行くアルケミストを指差す。
アルケミストはその名の通り、錬金術師。
ポーションや数々に便利なアイテムを作り出したり、それらを使っての後方支援。
または腕力や素早さが自慢なら前衛に回ることもできる。
「ホムンクルスを連れて歩けるし。
一人でも相棒が居る感じで楽しいんじゃない?」
アルケミストはホムンクルスという、人工生命体を作り出せる。
ソロではそのホムンクルスと一緒に狩りに出かけることだって可能だ。
「う~ん…考えておく」
苦笑いしながら、大きなカートを引き、去っていく。
「……」
一生商人でいるのも悪くないとは思う、けどね。
あたしはきなこに、マイペースでもいいから、隣で歩いて欲しい、そう思ってるんだ。
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