先生の次回作にご期待ください!
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──先生の次回作にご期待ください!
俺たちは食堂を借りて、全員で次に書く作品を話し合うことにした。
「今度は部誌じゃないですけど、内容は何でもいいんですか?」
「合同誌を担当しているのは新聞部だけど、公共良俗に反しないならば何でもいいと言われているよ。ただ1万字とか2万字とかのあまりにも長いものは困ると言われている」
「了解です」
1万字も2万字も書ける自信はないのでそこは問題ない。
「何書こうかな。この前部誌に載せたので自信ができたんだ」
羽黒さんがそう言っているが、俺はさほど自信はない。
「あたしは部誌に載せたやつの続きを書いてみようかなぁ~。割と気に入った登場人物になったし、続きを書きたい感じ」
「いいじゃん。あれの続きなら読んでみたい」
「本当? しののめっちがそう言ってくれるなら書くしかないぜ~」
古鷹の書いてたファンタジーは魔女と騎士がいい感じの間柄になったところで終わってたので、それからさらに関係を深めるところまで読みたいと思っていたのだ。
「長良部長は?」
「実を言うと新しいファンタジー小説を書きたくてね。完成したらそれを、できなければ過去作を持ってこようと思っている」
「部長は過去作がありますもんね。……全部エタってますけど」
「うぐぐっ!」
長良部長は過去にいろいろ書いているがどれも未完なのである。
「伊吹は何書くのか決めてるのか?」
「い、一応……。け、けど、教えないぞ……」
「教えてくれよー」
「い、いやだ。か、完成するまでは、な、内緒……」
伊吹って部誌に書いた小説もまだ見せてくれてないし、こいつどういう作品を書くんだろうか? それとも案外、感想とか分析とか各タイプだったりするのか?
伊吹、ミステリアスな女だ……。
「そう言うしののめっちは何書くのさ?」
「俺か…………」
そう、俺は何を書き、何を思うのか……と小説のあらすじっぽく言ってみたが、正直何のアイディアもないのが現状だ。
最近、読んだ本の感想とかも考えたが、感想文って書くの結構大変なんだよな。ラノベだったら気軽にレビューできるんだけど。
「俺は人間関係にフォーカスしたファンタジー小説が書きたいかなぁ。この前、世界観を作るのは楽しかったんだけど、普通に書いてるとそんなに世界観が前面に出ることってなくてさ。どちらかと言えば重要なのは人間関係だなと」
「おおー。学んだんだね、しののめっち。確かに作った世界観を全部作中で書くのは難しいもんな~」
「そうそう。だから、いい感じにエモい人間関係があるファンタジーを書きたい」
世界観を作るのは楽しいのだが、作中でそれを出すのは難しい。無理やり設定ばかり出すと話のテンポが悪くなってしまうのだ。そして、せっかく作った世界観なのに出せないのは寂しい。
というわけで、今回は前作の世界観を流用しながらも、もっと人間関係を前に出していきたいと思うのだ。
「やっぱり舞台は魔術学校だけど、そこで蠢く陰謀を解決するために教師と生徒のコンビが挑むってのをやりたいかなぁ。今は暫定的にそんな感じ」
「あれ? 東雲君、もうリリーと北上君の話は書かないの?」
「ああ。北上は地球に戻っちゃったし、リリーも付いて行ったろ?」
「あのふたりがこの夏帰ってきた! とかは?」
「映画のキャッチコピーじゃないだから」
リリーと北上は最後には地球に戻っているのだ。なので、もう出せない。
「そっかー。私はどうしようかな? 続き書いちゃおうかな?」
羽黒さんの話は連載形式でまだ完結していなかったと聞く。
「相談事があれば俺や榛名先生も聞くから遠慮なく相談してくれ」
作品をことごとくエタらせる長良部長だが、それでも面白さは本物なので頼りになる。全ての作品未完でエタらせてるけど。
「はいはい、質問です! 載せる範囲内で完結するというか、理解できる内容じゃないとダメですか?」
「できればそうしてほしいと言われているけど、無理はしなくていいよ。実は続きがあってとかでも全然オーケー」
羽黒さんが早速質問し、長良部長が応じる。
そう言われても俺として合同誌を読んだ人が『この話、ここだけ読んでも意味不明な駄作だな……』とか思われても嫌なので、一応起承転結ないし、三幕構造で完結させておきたいと思う。
「合同誌って他にどんなのが乗るんです?」
「そうそう。新聞部が仕切ってるんですよね?」
そう尋ねるのは古鷹で、俺も気になったので便乗する。
「文化系部活はほとんどが寄稿する予定みたいだよ。新聞部はこれまでの注目記事を載せると言っていたかな。他には科学部の実験レポートだったり、天文部の天体観測の記録だったりとかだね」
長良部長もまだ完成した合同誌を見てないので断言はできない様子。
「文化系の部活ってことは手芸部とかも?」
「ああ。彼女たちはフェルト人形の作り方を載せるって言ってたっけ」
羽黒さんも尋ね、部長はそう言った。
「結構、立派なものになりそうっすね。となると、手も抜けない……」
「頑張るしかないぜ」
俺と古鷹はお互いにそう言った。
それから俺たちは互いにアイディアを出し合いながら、文化祭に掲載する作品作りに取り組んだのだった。
それが18時ごろぐらいまでの話で、それから俺たちは夕食をいただくことになった。
「おお~! 豪華~!」
「マジで豪華っすね!」
お造りや色鮮やかな小鉢料理が並び、旅館で定番の固形燃料で温める鍋なども盛りだくさんの夕食だった。ごんな豪華な夕食が食べられるとは! 来てよかったぜ~!
「いやあ。お酒がほしくなっちゃいますね~」
「榛名先生、飲めばいいじゃないですか?」
「一応これも部活における活動ということになっていますから、職務中の飲酒はダメなんですよ~……。万が一、部員であるあなた方に何かあったときに酔っぱらっているわけにもいきませんしね~」
そう言って榛名先生はノンアルコールビールを飲んでいた。飲みたいけど飲めないとは大人は大変だな……。
「これ、食べ終えたらお祭りに行くことになっているけど、オーケー?」
「オーケーです! 楽しみだなぁ……」
羽黒さんは一番テンションが高い。流石は陽キャの暴走ガールだぜ。
「しかし、何のお祭り何です?」
「地元の神社のだよ。そう珍しくもないよ」
「へえ。何かこう、隠された謎があったりとかは? 実は神社で祭られているのは、祟り神だったりとか?」
「ないない」
古鷹が声を落として尋ねるが、長良部長は一笑に付す
そ、そ、そうだぞ! そんなホラー映画みたいなことがあってたまるか! 縁起でもない!
ホラー映画だと俺たちのようなよそ者が祠か何か壊して『あの祠を壊したんか!?』っておじいさん言われて、そこから呪いや祟りが始まるのが定番だが。この中で祠を壊すような罰当たりはおらんだろうしな。
「ご飯、まだまだお替りあるから、遠慮なく言ってね~」
「ありがとうございます!」
ここで食堂に結奈さんがやってきてそう言い、俺たちは貪るようにもぐもぐと夕食をいただいた。
「お替りください!」
それにしても羽黒さん女子なのに体育会系並に食うな………。
「しののめっち。お祭り、楽しみだね」
「ああ」
古鷹が笑いかけるのに俺はそう返した。
お祭りと言えば浴衣姿のあの子にどきりってイベントがあるもんだが、今回は誰も浴衣を準備していないのである!
青春ポイント、若干のマイナスです。
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