7話「夕暮れのぬくもり②」
交番が見えてきた頃、町は少しずつ灯りをまとい始めていた。
そのときだった。ガラスの引き戸が開く音とともに、赤いショルダーバッグを抱えた女性が勢いよく駆け出してくる。
「さやかっ……!!」
掠れた声が空気を震わせた。
「ママ!」
さやかの声が跳ねるように返った瞬間、小さな体が駆け出していた。迷いもなく飛び込んだ母親の腕の中に、勢いそのままにすっぽりと包まれる。
母と娘はそのままぎゅっと抱きしめ合った。泣きじゃくるでもなく、ただ、お互いの存在を確かめるように。声にならない安堵が、二人の間に何度も行き来していた。
「……よかった……ほんとに、よかった……!」
「うん、ママ、さやか大丈夫だったよ……!」
その光景を見つめながら、咲真は思わず心の中で息をついた。胸の奥で、ゆっくりと張り詰めていたものがほどけていく。
やがて母親は、こちらに気づき、娘の肩に手を添えながら深々と頭を下げる。
「本当に……本当にありがとうございました……! どれだけ探しても見つからなくて……私……」
声が震えていた。けれどその震えには、ようやく見つけ出したものに対する確かな感謝が込められていた。
その隣で、眞白がそっと一歩前に出る。薄黄蘗色のふわりとした巻き巻きロングヘアーが夕暮れの風にゆらめいた。
「いえ、どうかお気になさらず。さやかちゃんが、しっかりと落ち着いていてくれたんです。わたしの質問にも、ひとつひとつちゃんと答えてくれました。お母さまのお名前も、赤いかばんのことも、教えてくれて……」
「ほんとうに……?」
母親の声が、ほんの少しだけ涙混じりに揺れた。
眞白は優しく微笑む。
「はい。とても立派でしたよ」
その言葉に、さやかは少しだけ胸を張るようにして、眞白を見上げた。
「ねえママ、お兄さんとお姉さんね、ずっとそばにいてくれたの。さやか、ちょっとだけ怖かったけど、この2人と一緒なら大丈夫って思ったんだよ」
母親はふたたび、感極まったように頭を下げた。
眞白は小さく首を振ると、さやかの頭を優しく撫でて言った。
「さやかちゃんが無事にお母さんのところに来れてよかったです……本当に、よかったです」
言葉は穏やかだったけれど、その奥にはきっと、眞白自身の従兄弟への後悔と、今の行動の核心があった。
さやかは、くすぐったそうに笑って言った。
「お姉さんの声、すごく安心するの!」
その一言に、眞白の目がわずかに丸くなる。そして、かすかに照れたように視線を逸らしながら、けれどしっかりと応える。
「……ありがとう。そう言ってもらえると、本当にうれしいです」
咲真はそのやりとりを少し後ろから見守っていた。二人の会話があまりに自然で、まるで昔からの家族のようにすら感じられた。
あたたかく、柔らかく、どこまでも優しい時間がそこに流れていた。
⭐︎
交番で母親とさやかちゃんが無事に再会し、安心した様子で手をつないで歩き去るのを見送った二人は、部屋の前にまで帰ってきた。
「今日はありがとう、八神さん。助かりました」
眞白は薄黄蘗色のロングヘアーをそっと揺らしながら、少しだけ笑みを浮かべて丁寧に頭を下げる。
咲真も軽く会釈を返しながら、笑顔で答える。
「いいよ別に、俺が勝手にした事だし」
「また、何かあったら声をかけてくださいね」
「まぁ……気分が乗ったらな」
そう言い残し、咲真は自分の部屋のドアの前まで歩く。
ふと咲真が、眞白の方を向くと、彼女は軽く微笑みながら言った。
「おやすみなさい、八神さん」
「おやすみ、七瀬」
お互いに軽く会釈を交わし、それぞれの部屋のドアを静かに閉めた。
互いのドアが静かに閉まったあと、廊下にはほんの少しだけ、あたたかな余韻が残っていた――
♦︎♢
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