フリー知的財産権

ちびまるフォイ

フレームの知的財産権

「推しの供給がぜんぜん足りてない……」


自分の好きな作品はもう20年前のアニメ。

放映も終わっているし、グッズも入手困難。

人気作品でもなかったので、リメイクも絶望的だろう。


「私はずっとこのまま20年前をこすり続けるのかな……」


ネットを眺めていると、唯一グッズが売られているのを見つけた。

ただし注文はできず現地で引き渡しとのこと。

入手困難な作品のものであれば、と現地に向かった。


「こ、ここ……?」


場所はドーム状に隔離された謎の施設。


「こんにちは、フリー知的財産国へご入場ですか?」


「え、ええ。たぶん」


「でしたら、外部と通信できる一切はこちらでお預かりします。

 そして入国料もいただきます」


「あの……フリー知的財産国ってなんです?」


「知らずに来たんですか? 珍しいですね。

 ここでは規定の入国料を支払えば、認可された作品を自由に扱える場所です」


「はあ」


「見たほうが早いと思うので、フリービジターとして扱いますね。

 気に入ったらぜひ定住してみてください」


首から下げるストラップを受け取り中に入る。

待っていたのはIPガン無視のはちゃめちゃな世界だった。


「う、うそ!? 教科書にモッキーが載ってる!?

 あっちには"かわちい"と"パケモン"のコラボ映画!? すごい!!」


この場所では複雑な権利関係のしがらみはない。

誰もが好き勝手に作品を取り扱って許される。


自分の推し作品も第三者がグッズ展開して供給してくれていた。


「20年前の作品なのに……!! まだこんなものが手に入るなんて!!」


スマホケースなんか20年前には手に入らなかった。

自分以外のファンや製造業者が作ってくれるのはありがたい。


フリービジター入場したその日に定住を決めた。


それから数日が過ぎた。


「はあ、この場所は最高ね。便利でグッズの供給もあるし」


公式スマートフォンの改造版が市場に溢れていて、

公式よりもずっと高性能で、ずっと安く手に入る。


さまざまな作品がコラボレーションして商業作品が公開。


秘伝のタレの情報もフリー公開されているので、

どこで食べても名店のような味が食べられる。


「ここへ来て本当によかった!」


知識や情報は公式がガチガチに権利で固めるより、

この場所のようにフリー公開したほうがいいなと思った。


それからしばらくした頃。

自分の好きな作品のグッズが販売されると情報を得た。


「これは絶対に見逃せない! 手に入れなくちゃ!!」


ショップにいくとお目当てのキーホルダーやぬいぐるみがあった。

普段ならお腹をすかせた獣のように飛びつくが、今回は手が止まる。


「あ、あの……これ……」


「ああ、新作のぬいぐるみですよ。うちで作ったんです。買いますか?」


「ではなく、どうしてぬいぐるみの服にダズニー作品のマークが?」


「え? んーー……よく考えてないけど、人気でしょう? ダズニー映画」


「そうじゃないです。このキャラは可愛いものが苦手な男の子。

 こんな服着るわけ無いじゃないですか!」


「はあ……」


厄介なオタクが来たな、とわかりやすく嫌そうな顔をした。


「じゃあ買わなければいいじゃないですか」


「買いませんよ! でも私の好きなキャラを汚すのも辞めてほしいんです!」


「でも喜んで買う人もいますよ?」


「それは作品理解度が低いからでしょう!?」


「うるさいなぁ。ここじゃ知的財産権なんてないんです。

 どの作品をどう扱おうが別にいいじゃないですか」


「もういいです!!」


グッズはなにひとつ買わなかった。

多くの作品が自由に使えるだけにその扱いはどんどん雑になっていった。


原作を知りもしないで作られたグッズ。

キャラクター性ガン無視の映画。

ファンが泣いてしまうような残酷な扱い。


「こんなの……こんなのおかしい……」


誰もが好き勝手にできれば、作品も広まっていいとすら思っていた。

でも実際は作品の陳腐化が進むだけだった。


私の推し作品もデスゲームに参加させられたり、

大好きなヒロインがズタズタにされたりする作品すら市場に出てくる。

そんなの絶対に見たくない。


「もうこんなところいられない!!」


退場ゲートから知的財産国を出国した。

もとの世界に戻ってくると安心する。


「はあ……いくら供給があっても、

 作品を壊すようなものは絶対ダメね……」


元の世界ではオリジナル作品がたくさん生み出され、

その権利をしっかり守ってブランドを確立していた。


ふと顔をあげるとビルのバカでかい液晶広告では新作アニメの告知がされていた。


『悪はぜったい許さない! 

 魔法中年オジギャルバースト! 毎週火曜日から放送開始!!』


既視感があった。


「あ、あれ……? これ20年前のあの作品の設定じゃ……」


もう誰も覚えていないマイナー作品だとしても私は覚えている。

すぐに作者に連絡をした。


ごまかしたりするのかと思ったが、作者はあっさり認めた。


「ああ、あの作品。あなたも好きなんですね」


「いや好きとかそういうものじゃないですよ!

 どうしてこんなそっくり作品作ったんですか!」


「失礼な。そっくりなのは設定だけでしょう?

 あの設定はたしかに素晴らしい。だから近いものにしただけです。

 それ以外は使っていませんよ。証拠だってあります」


「そうなんですね……。すみません上っ面だけ見てしまって。

 それで証拠というのは?」


「これです」


作者は何かから出力した文章のログを見せた。

それはAIに対する指示文のようだった。




「設定はあなたも好きな作品。

 でもキャラは作品Aのもの、人間性は作品Bを踏襲しつつ、

 敵は作品Cを使って、作品Dのタッチで出力しています。

 こうして生み出されたのが僕の作品です!

 

 ほら、設定以外は別の作品を使ってるから問題ないでしょう!?」




私はオリジナルという概念がわからなくなった。

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