観測ログ44:発見と決戦
今日から本格的に魔の領域へ踏み込む。
簡単に朝食を済ませ、装備を確認してから出発する。
普段なら道中ずっと騒がしいライガとミアも、さすがに口数が少ない。
二人とも周囲を警戒し、足取りも慎重だ。
今までと違う濃い魔素が、ここから先は違うと告げている。
次々に現れる魔物を蹴散らしながらしばらく進むと、視界が開けた。
丘……いや、小山と呼ぶべきか。
そのあちこちに生える木々の隙間から、ゴブリンが次々と姿を現しているのが見えた。
「……どう、ヴォイドちゃん? 何かわかる?」
ミニーが小声で問いかけてくる。
「うーん……うまくは言えないが」
視線を巡らせながら、正直な感覚を言葉にする。
「全体的に、なにかおかしい。
しっくりこないというか……違和感がある」
配置、数、動き。
ゴブリンが湧いてくる以外どれも“普通”のはずなのに、どこか噛み合っていない。
ヴォイドは、その違和感が最も強く引っかかる方向へと歩き出した。
「……ん? あれ?」
視界の一点で、空気がわずかに揺れている。
熱気でも蜃気楼でもない、説明のつかないあのダンジョンで感じた“ゆらぎ”。
意識を集中させると、はっきりとわかる。
そこだけ、他よりもゴブリンの数が多い。
しかも、上位種と思しき個体まで混じっている。
「……抑えてくれ。俺が行く」
仲間がゴブリンを引き受けている間に、ヴォイドはその地点へと近づく。
――ここだ。
「……俺のサーチだと、この辺に洞窟の入口があるはずなんだが……」
しかし、目に見えるのはただの岩壁と木々だけ。
ヴォイドは静かに手を伸ばし、その“何もない空間”に触れた。
その瞬間――
周囲の空間が、水面に石を落としたかのように一瞬波紋を描く。
そして、揺らぎが収束した先に。
巨大な洞窟の入口が、突如として姿を現した。
そして、洞窟の奥から――
ゴブリンが、まるで溢れ出すように湧いてきていた。
「ビンゴ!」
状況を見たカイルが短く言い切る。
「どうする? 一回戻って立て直すか?」
しかし、その問いにかぶせるように。
「……そうは、させてくれなさそうよ?」
次々と襲いかかってくるゴブリンの群れを見て、エリシアの表情が曇る。
「やってやろうじゃねーか!」
ライガが吠え、前に出る。
「大丈夫。まだやれるよ♪」
ミアも余裕を崩さず、武器を構えた。
「――よし、進もう」
グラディオの一声と同時に、隊列が崩れ、洞窟内へと突入する。
奥へ進むにつれて、明らかにゴブリンの質が変わっていく。
数だけではない。
動き、連携、魔法――確実に“強く”なっている。
「……あれは……」
ミニーが指差す先。
岩壁を削っただけの粗末な造りだが、どう見ても神殿と呼ぶべき建造物がそこにあった。
「邪教徒たちが建てた神殿……かしら」
その言葉を聞いた瞬間。
狂信者クラリスの瞳が、異様な光を帯びる。
「……皆殺し」
制止する間もなく、クラリスはメイスを振り上げ単騎で突入していった。
「おい、待て!」
慌てて後を追い、神殿の内部へ踏み込む。
そこは祭殿のような空間だった。
中央には魔道具――明らかに人の手で作られた装置が設置され、
その前には次元の裂け目が開いている。
裂け目の周囲では、ゴブリンシャーマンたちが何かを唱え、次々とゴブリンを召喚していた。
さらに――
その奥。
ゴブリンが作ったとは思えないほど悪趣味で野蛮な玉座。
そこに、ひときわ大きな影が腰掛けている。
周囲には上位種のゴブリンたち。
「あれは……」
カイルが息を呑む。
「ゴブリンジェネラルに……ゴブリンキングじゃねーか?」
その一言に、場の空気が一気に張り詰めた。
――魔の領域。
その核心は、どうやら思っていた以上に深い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます