観測ログ19:特権の報酬

 訓練場──ギルド内でもっとも広い空間に、今回のダンジョン探索で回収された財宝がずらりと並べられていた。


 事前に調査隊によってすべてリスト化されており、数をごまかすことはできない。分配のルールは明快。ひとり一点まで。


 今回は発見者特権により、まずヴォイドたち三人が先に選ぶことになっていた。

 静かなる剣とミニーにも当然権利はあるが、それはそのあとだ。


 「おっしゃあ、じゃあまずは武器コーナーだな!」


 声を上げたライガが、まっすぐ武具の山へと駆けていく。


 「私は宝飾品、っと。どう見ても金目の物よねこれ♪」


 ミアは目を$にしながら、派手なネックレスに手を伸ばしていた。


 そんな中、ヴォイドはゆっくりと歩きながら、気になった品に片っ端から鑑定をかけていく。


 「……あれ、あなた、鑑定まで使えるの?」


 横に並んで来たエリシアが小声で言う。


 「あ、ああ。魔術講習で覚えたんだ。まだ人物には使えないけど、物ならだいたいわかるよ」


「魔術講習で?鑑定っていうのは魔術じゃなくてスキルだから普通教えられて使えるようになるものじゃないのよ。」

 

「ああ、観測者の弟子とか言う確かセリオンって名前の講師にいきなり鑑定をかけられてさ。そしたら術式?なんとなく仕組みが分かって使えるようになったんだ」


「あーあの魔術バカね。あいつなら術式に出来るかもね。そう言えばここにいるって聞いた事あったわ。それにしても他人にいきなり鑑定かけるなんて…」


ブツブツ文句を言い頭を抱えながらながら離れていった。


ヴォイドは鑑定を通さず情報をはじく品に、ひときわ注意を払っていた。


 (むしろ、鑑定できない物のほうが当たりなんじゃないかって気がしてきた)




◆◆◆

 


ライガのほうを見ると、大剣を何本も並べて唸っていた。


 「うーん……一つに絞れねえ!」


 どれも強力そうで、それぞれに違った個性があるらしい。優柔不断というより、欲深なだけだろう。


 「……あれ」


 ヴォイドの目に留まったのは、漆黒の大剣だった。ごく薄く、刀身の表面に星屑のような光が散っている。


 鑑定をかけると、浮かび上がる文字。


 《隕鉄(偽)製》

 《銘:星斬(偽)》


 「守護者が使ってたやつ……レプリカか?」


 本物は、魔法や魔術を通しやすく、魔法や魔術を斬ることも弾くこともできる特殊な武器だという。だが残念ながら、これはレプリカ──模造品だった。


 ライガが興味深げに手に取るも、何かが違ったのか、すぐに別の大剣に目を移す。


 「お、これ……いいな」


 彼が手に取ったのは、柄の部分にライオンの彫刻が施された、いかにも重厚な大剣だった。


 「……鑑定、銘は『獣剣"ビーストソード"』(封印)。それ以外は弾かれる」


 「封印ねぇ……でも、こいつが一番しっくりくる。決めた、俺はこれだ!」


 肩に担いだ姿も様になっていて、風格すらあった。


「ねえヴォイド、これとか超高そうじゃない?」


 ミアが持ち上げていたのは、でかい宝石のついた派手なネックレス。金の細工も凝っていて、見た目の豪華さは間違いない。


 「待て、それはやめとけ」


 ヴォイドがすぐに鑑定をかける。表示されたのは《呪い:精神汚染・中》。


 「呪われてる。」


 「えっ!? マジ!? こんなにキラキラしてるのに!?」


 ミアが慌てて放り出す。ネックレスは床に転がり、どこか黒ずんで見えた。


 「見た目だけで選ぶなって、何度言ったか……」


 「むー、金目のもの欲しかったのに」


 拗ねたミアに、ヴォイドは近くのアクセサリーを一つ手に取る。細身の銀の腕輪に、淡い青の魔石がひとつ。


 《効果:迅速(小)、消音(小)》


 「これにしたら?速く動けて、音も出にくい」


 「地味〜」


 「いつもうるさいミアが静かになる。超貴重」


 「むぅ!」


 文句を言いつつも、ミアは腕輪をはめて嬉しそうだった。




◆◆◆




さて、自分の番だ。


 武具、宝飾、道具類。財宝の山は種類も多く、目移りする。


 「……本当に、どれ選べばいいんだか」


 迷ったヴォイドは、小声で魔術を唱えた。


 《サーチ》


 空間に漂う魔素の反応が視界に浮かぶ。

 込められた魔力の強さが点の光となって、いくつもきらめいていた。


 (……うわ、静かなる剣。やっぱ魔力量すごいな)

 (あの化け物は……ミニーか)

 (ダリオもさすがギルドマスター。Aランク並かそれ以上あるな)


 強者たちの魔力に少しビビりながら、ふと端の方に視線が動く。


 (……ん? 猫?あれ?猫だよな?)


サーチを切り目で見ると確かにあの猫だ。


《サーチ》


(猫?いる?いない?)


確かに魔力の反応はあるが定まらずよく分からない


(まぁ猫に魔力があるかなんて分からないしな)


 じっと何かの上に乗りながら、こっちを見ている。


 (猫が……乗ってる物…)


 その下にあるのは、ひどくボロボロになった一冊の本だった。

 表紙は破れ、背も割れて、今にも崩れそう。だが、なぜか目が離せなかった。


 ヴォイドは近づいて、そっと手を伸ばす。


 《鑑定》


 ……無反応。完全に弾かれた。


 (鑑定すら通らない。でも……これだって気がする)


 本を手に取ると、猫が「にゃー」と小さく鳴いた。


 「そうか。分かってくれるか、猫よ」


 「……お前、それでいいのか?」

 

「こんなので満足か?」


 周囲の視線に、ヴォイドは頷いた。


 「いいんです。たぶん、これが一番いい」


誰も選ばないものを手にできる──それが、発見者特権の本当の意味だとヴォイドは思った。


ヴォイドが本を抱えて戻ると、ほかの面々もそれぞれ選び終えていた。


 「おい、グラディオ、それは……」


 大きめの木箱の中から、彼が抱き上げていたのは、自律型の小型ゴーレム。丸っこくて、どこか犬っぽい。


 「息子への土産だ。」


 「……息子いたのか」


 グラディオが子持ちだったという事実に、思わず沈黙する。


 一方、カイルは綺麗な魔石の嵌った指輪を選んでいたが──


 「それ、軽い混乱と知力低下の呪いついてるぞ?」


 「うん。だが、それがいい。」


 「……どこぞのオネーちゃんにあげるんだろうが悪用すんなよ」


 どこか楽しそうな笑みが不穏だったが、あえて深入りはしない。


 エリシアが手にしていたのは、黒革のバッグ。見た目はやたら禍々しい──ドクロに蛇の装飾まである。


 「それ、アイテムバック?」


 「中サイズね。女性は荷物多いから助かるわ」


 「いやでも、それ女の子向けのデザインじゃ……」


 「術式だけ取り出して、自分のバッグに組み込むわよ?」


 「……そんなことできるのねー……」


 最後に、ミニーが無造作に選んだのは、銀細工の指輪。効果は《魅力(大)》だが──


 (いや、どう見ても……その指には入らないだろ)


 指というより丸太のような太さ。ヴォイドは何も言わず、そっと視線を逸らした。




◆◆◆




「よし、全員決まったわね。選んだ物はこっちで記録させてもらうわね」


 いつの間にか現れたラナが書類に目を通しながら、ぱちんと手を打つ。


 「報告の方は“静かなる剣”がすでに済ませてくれてるわ。この報酬についての情報は調査隊には、こちらから情報を共有しておくから──」


 「あとする事と言えば──」


 ダリオがちらりとこちらを見て、にやりと笑った。


「打ち上げだ!今夜は倒れるまで食って飲むぞ!」


「お肉♪お肉♪」


「ギルドの酒場を貸し切ってるから今夜は思う存分食って飲めるぞ!」


 ミアが目を輝かせる。隣でライガがすでに口を拭っていた。


 「へへっ、肉と酒が俺を呼んでるぜ!」


「そう言えば……この世界に来てから、酒って飲んだことなかったな」


ヴォイドは、どこか遠い目をしながら小さく笑った。


 確かに今日は疲れた。でも、何だかんだ悪くない一日だった気もする。


 「じゃあ、行こうか。祝杯は──生きて帰ってきた者の特権、だしな」


──こうして、ちょっと遅めの打ち上げが始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る