【ユニークスキル:確定観測】重力魔法を極めし俺は、世界の理さえ書き換える

転生人語(てんせいじん かたる)

観測ログ01:観測されざる存在に関する初期記録

 深夜の大学研究棟。

 蛍光灯がチカチカと点滅し、静かな廊下には俺の足音だけが響いていた。


 物理学研究室。その片隅で、大学院生の俺はディスプレイに釘付けになっていた。

 眠気も空腹も忘れ、彼の目はグラフの揺らぎに釘付けだった。


「……観測波形に異常あり、か」


 卒業論文のテーマは**「ダークマター《暗黒物質》による重力操作と反重力の可能性」**。

 普通の学生なら絶対に選ばない内容だ。だが俺は、“凡人”である自分を証明するために、あえて誰もやらないテーマに挑んでいた。


 その努力が、ついに結果を見せようとしていた。


「波形が偏ってる……これは、観測者効果……?」


 観測装置のモニターに映るのは、ありえない“ゆらぎ”。

 ダークマターと思われる粒子の一部が、まるで誰かに“見られて”動きを変えていた。

 量子レベルではない、もっと大きなスケールで。


「まさか……観測されること自体が、何かを引き起こしてる……?」


 そのとき——


 ブウゥゥゥン……!


 装置の音が高鳴り、モニターの中で波形が暴れ始めた。

 警告音。異常な重力反応。照明が落ち、床が揺れる。


「やばっ——!!」


 次の瞬間、装置の中心から黒い光が弾けた。

 重力が歪み、俺の身体はその中へ吸い込まれ——


 ——視界が、全て闇に包まれた。


 ⸻


 ◆◆◆


「……風?」


 生ぬるい風が頬を撫でる。耳には葉のざわめきと鳥のさえずりが聞こえる。

 目を開けると、広がるのは森。星が瞬く夜空。土と草の匂い。


「どこだ、ここ……」


 身体を起こす。痛みはなく、服も変わらず。研究室にいたはずなのに、周囲は完全に自然だった。


 服装は確かTシャツにジーンズだったハズだが上下共に粗末な布製の物になっていて、腰紐に革製の袋とひとふりのナイフがぶら下げられ、中には見たことのない硬貨が何枚か…


「夢じゃ……ないよな?」


 そう呟いたとき、


《ユニークスキル:確定観測(読取不能)》

【説明】:∴≠◎♯×tmjwtgn@297・=々\……

《スキル:重力操作》を習得しました。


「……スキル?誰の声だ……?」


 頭の中に響く声。

 周りを見渡しても誰もいない


「重力操作……って、そのまま重力を操るってこと?」


 試しに地面に落ちていた小石に意識を集中してみる。


「……浮け」


 石がふわりと宙に浮いた。


「うわっ! 本当に……!?」


 思わず後ずさる。次に自分自身に意識を向けると、身体が少し軽くなった。ジャンプすると、通常の3倍以上の高さに飛び上がった。


 重力が、変わってる。

 地球の1Gじゃない。自分が“意図的に”重力を操作している。


「……これがスキルの力?いや、物理的に説明できるのか?」


 俺の頭は混乱しながらも冷静だった。大学院生としての訓練が、状況分析を助けていた。


 次に、最初に表示された“確定観測”というユニークスキル。

 説明も文字化けしていて全く読めず、バグっている。なのに、明らかに“何か”がそこにある感覚。


「まるで……自分の存在そのものが、まだこの世界に“確定”していないみたいな……」


 そう呟いた瞬間、頭に微かなノイズのような感覚が走った。


 どこかで“誰かに見られている”ような。

 


「もしかして、このユニークスキル…に関係してる?」


 量子力学における「観測問題」。

 観測されるまで粒子は確定しない、という有名な理論。

 


「……それなら、“確定観測”。このスキルの正体、そういう意味なんじゃないか……?」


 誰にも確認できない仮説。でも、納得はできた。

 同時に、言いようのない不安と期待が膨らむ。


 この力が何をもたらすのか。

 この世界で、自分が何をできるのか。

 少なくとも、これは夢や空想の出来事ではない。


 ⸻


 ◆◆◆



「……まずは、森をぬけないとな。近くに人がいるかも。情報収集しないと」


 慎重に森の中を進む。頭の中では、いくつもの仮説と警戒が巡る。


 この世界に“重力”という概念はあるのか?

 読取不能のユニークスキルの名前は共通語ではない?

 自分の能力は隠すべきか?バレたらどうなる?


 すべてが分からなかった。


 けれど、目の前の世界は、確かに“新たな現実”として存在している。

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