新生の大進撃
「――タイムアップ!! ここでAブロックの試合、終了ですッ!!」
鳴り響くアナウンスと同時に、特設ステージの空が一瞬まばゆく光り、勝敗を告げるフラッグが掲げられる。
「なんと――! なんとなんとなんとぉっ!!」
実況席から、3年・鳴神雄吾の叫びがステージ全体にこだまする。
「予選Aブロック、通過者が決定! ポイント上位4名が、決勝トーナメントへと進出します!」
大型スクリーンに映し出される結果。
...
...
...
4位:結城 燐 【1年】
だが、そこに夜風の名はもうなかった。
“敗北による戦闘不能”――その意味は、即ち失格。
「そして……なんといきなり! 1年生が予選を突破!!」
鳴神の興奮はピークに達していた。
「ポイントを重ね続けていた“風の乱者”こと風間に加えて、最後の大一番――栄光継承世代(グローリー・ヘリテージ)の一角、夜風伏影を正面から撃破した男……!」
ズームインするカメラが、膝をつきながらも立ち上がる燐の姿を捉える。
「燐ッ!! 名もなき新鋭が、この激戦を制したッ!!」
客席が一斉にどよめき、そして――歓声が巻き起こる。
「強敵ふたりを打ち破っての堂々たる突破! 初戦からこれは、大波乱だぁっ!!
誰がこの結果を予想
たいあぅぅいぁぅぅあいいあうおなまできただろうか――ッ!!」
スポットライトが勝者たちに向けて照らされる中、燐は静かに拳を握りしめた。
(……これが、俺の第一歩だ)
まだ呼吸は乱れている。
身体も、傷だらけだ。
けれど――その目だけは、すでに“次”を見据えていた。
⸻
控え室に戻ると、空気は一変していた。
まるでステージの熱をそのまま引き込んだようなざわめきが、そこかしこから響いていた。
「……あれが、1年の……?」
「まさか夜風を……!?」
「いや、ありえねぇだろ、あの夜風を正面から……!」
その中心にいるのは――燐だった。
名もなき1年生が、“栄光継承世代(グローリー・ヘリテージ)“の一角を撃破し、予選を突破した。
その“事実”は、瞬く間に控え室に広がっていた。
ざわめきの中、ドアが開く。
「やったじゃねえか、燐!!」
勢いよく駆け寄ってきたのは柏木だった。肩をぐいと抱え、笑みを浮かべる。
「お前、ホントにやったんだな……! まさか夜風先輩を斬るなんてさ!」
その後ろから、雷堂も腕を組んで無言で頷く。表情は険しいが、目はどこか嬉しそうだった。
「見せてもらったぜ、あの時の“覚悟”の続きってやつをよ」
「燐、やるじゃねぇーか!!
俺も負けてらんねぇーぜ!!」
雷堂も気合いが入った様子
そしてその後ろから、1年生たちが次々に集まってくる。
「まじで勝ったのかよ、アイツ……」
「本当に1年なのか……」
「いや、あれは“本物”だ。やべえぞ、今年の1年」
その視線には、もはや“後輩”への目はなかった。
ライバルとして――脅威として。
燐という存在は、完全に刻まれたのだった。
そして、その輪の外から、真田が無言で見つめていた。
「……見事だった、燐」
言葉は少ないが、深く静かな声音には、確かな称賛が込められていた。
「これで、お前は本当に――“次”へ進む権利を得たということだ」
燐は、軽く息を吐きながら頷く。
「……まだ、始まったばかりですから」
-----
――ステージ上に、再びアナウンスが響いた。
「Bブロックの選手は、ステージ上に集合してください」
控え室の扉が開かれ、続々と選手たちがステージへと向かっていく。
その中に、鋭い気配を纏った少女の姿があった。
氷のように冷たい視線と、流れる銀の髪。
氷室 紅(ひむろ・くれない)。燐と同じ1年生にして、その名を既に轟かせつつある存在。
そして、その隣を歩くのは――神代 沙羅(かみしろ・さら)。
長く艶やかな黒髪と、風格を感じさせる佇まい。
「出るんですね、神代先輩も」
「……あの人は去年、あの藤宮と準決勝まで戦った実力者だ。並の相手じゃない」
観客席から、そんなささやきが飛び交う。
そして始まるBブロック。
激しい光と衝撃の応酬。
氷室は、序盤こそ守勢に回るも、氷の結晶を駆使した鋭いカウンターで次々に相手を封じていく。
「《氷理結晶(クライオ・フォーミュラ)》……彼女のコードだ。自身の周囲に構造式を描き、そこから“変幻自在”の氷を形成する」
鳴神 雄吾の実況が熱を帯びていく。
「ぉっと! ここでまた一人リタイア――氷室、ポイントは12!」
一方、神代は開始直後から別格の動きを見せていた。
その一振り、その一瞬で周囲の空間が支配される。
風を操るような、無音の斬撃――それはまさに“剣の舞姫”。
「なんという精密さ! 神代、まさに風格と実力を兼ね備えた“王者の器”!!」
時間が過ぎ、予選終了のアナウンス。
「Bブロック、予選終了――!」
パネルに表示されたのは、
1位:神代 沙羅(39ポイント)
...
...
4位:氷室 紅(17ポイント)
「出ましたー! ここでまたも1年生、氷室が本戦進出を決めました!!」
「Aブロックの結城燐に続き……1年が2名突破。これは想定外の展開!」
「そして1位通過は神代先輩! その実力、誰もが認める完璧な勝利でした!」
観客席が沸き、控え室のモニター前にも熱が走る。
「……氷室もか」
燐が静かに呟く。
自分だけではない。1年生が確かに、強者の領域へ踏み込もうとしている。
⸻
Bブロックの戦いを終え、控え室には次々と選手たちが戻ってくる。
扉が開き、静かに入ってきたのは氷室 紅。
その背後から、堂々とした足取りで現れたのは神代 。
二人の姿を見た1年生たちは一斉に歓声を上げる。
「氷室! 本戦進出だってな!」
「やったじゃん、マジで凄いよ!」
氷室は無言でうなずくだけだったが、その頬はわずかに紅潮していた。
神代はというと、周囲の称賛を気にも留めず、真っすぐ前を見据えたまま自席へと腰を下ろす。
その姿に、生徒たちの間に緊張と尊敬が同時に走る。
「……やっぱ、すげーな……」
誰かがそう呟いたところで、アナウンスが流れた。
「Cブロックの選手は、ステージへ集合してください」
空気が再び引き締まる。
立ち上がったのは雷堂 虎と――悠斗だった。
「いってくるぜ」と軽く拳を掲げた雷堂に、柏木が笑って手を振る。
悠斗はというと、無言で肩を回しながら出口へと向かっていく。
その背中に、燐も自然と視線を向けていた。
(……どんな戦いを見せるんだろう)
⸻
そして、Cブロック予選終了。
会場がどよめく。
「Cブロック終了! 予選通過者はこちら!」
1位:???(上級生)
2位:???(上級生)
3位:雷堂 虎(18ポイント)
4位:久世 悠斗(15ポイント)
モニターに表示された結果に、控え室の1年生たちがざわめく。
「え……悠斗さん、4位!?」
驚いた様子の柏木がモニターを凝視する。
「いやいや、あの悠斗さんがギリギリって……何があったんだ?」
まもなく、扉が開く。
悠然と戻ってくる雷堂と、その後ろで考え込んだ表情を見せる悠斗の姿。
「おかえりなさい! 悠斗さん、すごいっすね! でもなんでギリ……」
柏木が駆け寄り、疑問をぶつけようとする。
その瞬間、悠斗が片手を軽く振り上げた。
「うるせぇよ、柏木」
ピシッと言われて、柏木が一瞬ひるむ。
だが、その表情には怒りではなく、わずかな余裕がにじんでいた。
「考えがあるんだよ」
悠斗はそうだけ言って、疲れたようにベンチへと腰を下ろす。
雷堂が笑いながら柏木の肩を叩く。
「まぁ、悠斗なりの戦い方ってことさ。オレたちにはわかんねーけどな」
「そ、そうっすね……」
戸惑いながらも、柏木はその背中を見つめた。
悠斗は確かに強い――だが、その“強さの奥”にある何かを感じた瞬間だった。
(考え……って、なんだろう)
静かに、次のブロックのアナウンスが流れ始める中、控え室の空気はますます熱を帯びていく。
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