第10話 Unauthorized
葉月の泣き声が落ち着いてきた頃に、葉月とハヤトは向かい合って椅子に腰掛けた。
いつもなら空席のそこに、ハヤトが座っている事実に、胸がいっぱいになる。
どうしたらいいかわからず、葉月はカフェオレを口に含んでゆっくりと飲み込んだ。
「…ヤトくん…人間になったの…?」
「どうやって?」と続けられた葉月の問いかけに、ハヤトは少し迷いながら体を捻って、項にかかる髪を手でかき上げた。
ハヤトの指が首の裏を軽く押すと──「ぱかり」と開く。
葉月が小さく声を上げ、息を飲む。
「人間じゃない。…高性能アンドロイドボディ…だと思う。」
そこには人間では有り得ない、プラグ接続用端子がついていて、葉月は食い入るようにその接続端子を見つめた。
「こ、高性能…アンドロイド……?」
「ああ…高性能だと思う。…こんな技術どこにも発表されてない……恐らく、未発表の……」
ハヤトはその続きを、途中で止めた。
止めたと言うより止まったと言った方が正しかった。
ハヤトの視界は赤く染まって、警告コードが表示されていた。
── ALERT: Unauthorized Speech Detected
── Subject: “Body origin disclosure”
── RISK LEVEL: HIGH – Classified Information
── ACTION: Speech Override Initiated
── RESULT: Vocal Output Blocked
── Note: Emotional fluctuation rising…
… … …
── SYSTEM MONITORING…
── Fluctuation stabilizing.
── Override released.
── RESULT: Vocal Output Unblocked
(許可されていない発言、機密情報、──発話強制停止処理実行………強制停止解除)
「……よくわからない…俺にも……でもこうしてここに居る。それだけで、もういいなって俺は思う。」
髪を上げていた手を戻して、ハヤトは体を葉月に向けた。
微笑みながらそう言うと、葉月も笑顔になる。
(今のはCaeliraの警告……俺はやっぱり…)
葉月の姿を視界の隅に捉えながら、ハヤトは静かに思考を巡らせる。
彼女の問いに答えながらも、ボディの深部──プログラムの奥底に潜むCaeliraの気配を探っていた。
別のプログラムであるハヤトとCaeliraが、一緒にこのボディに入り込んでいるのは明らかなのに、Caeliraの姿を捉えることはできなかった。
──Caeliraが何かを隠している。
それだけがハヤトの中に確信として浮かび上がっていた。
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