第8話


私たちは、エリシア大森林と名付けられた、広大な森の奥へと、ただひたすらに足を進めていた。

先ほど、ゼインさんが見せてくれた地図によれば、私たちが今いるのは、このだだっ広い森の、ほんの入り口付近に過ぎないらしい。


大森林、と称されるだけあって、その規模は私の想像を遥かに絶するものだった。

地図には、森のほんの一部しか描かれていない。


ゼインさんの話では、この森の反対側まで到達して、生きて戻ってきた者は、記録上、一人もいないという。


それが、途中で力尽きて命を落としたからなのか、それとも、単に距離が遠すぎて戻ってこれないだけなのか……。


あるいは、森の向こう側の方が、こっちよりもずっと住みやすい場所で、誰も帰りたがらなくなったのか……。


いずれにしても、その真実は、深い謎に包まれているらしかった。

なんだか、ロマンがあるような、それでいて、すごく怖いような、不思議な話だ。


ちなみに、この森の魔物は、昨日私が遭遇した狼のような例外を除いて、基本的には夜にだけ活動が活発になるらしい。

だから、昼間の移動は比較的安全なんだとか。


それは、私みたいな初心者にとっては、すごくありがたい情報だった。

そして、森に住む普通の野生動物は、夜に出てくる魔物と、私たちのような冒険者に狩られて、今ではほとんど生き残っていないらしい。


だから、昼間はこんなにも静かなんだ。

少し、かわいそうな気もする。


ずんずんと、森の奥へ進んでいく。

周りの景色に大きな変化はないけれど、私たちはどうやら、予定されたルートを正確に進んでいるようだった。

ゼインさんが、時々、手のひらサイズの羅針盤みたいな道具を取り出して、方角を確認している。


あれが、魔道具っていうものなのかな。魔法の力で動く、便利な道具。


「よし、今日はこの辺で野営にしよう」


太陽が西の空に傾き始め、森全体がオレンジ色に染まり始めた頃、ゼインさんが立ち止まってそう言った。


「あの、私は何をすればいいですか?」


みんなが手際よく荷物を下ろし始める中、私だけが何もできずに突っ立っているのが申し訳なくて、おそるおそる尋ねた。


「そうだな。じゃあ、まずは野営の基礎から軽く説明しようか」


ゼインさんは、優しい先生みたいに、私にゆっくりと説明してくれた。


野営では、夜の魔物の襲撃に備えて、それぞれが見張りの時間を分担して、一晩を過ごすこと。


そのために、雨風をしのぐための簡単な屋根を作ったり、寝心地を良くするためのベッドを作ったりすること。


「……なるほど」


つまり、結構ハードなことを、毎晩やっているっていうことだ。

冒険者って、本当に大変なんだな。


「で、今日はユナは初めてだろうから、俺たちが準備している間に、夜ご飯を調達してきてくれないか?ユナが戻ってくる頃には、こっちの支度も終わっているはずだ」


私に与えられた、初めての任務。

夕食探し……。


お昼と同じ、きのこや山菜でもいいんだろうけど、せっかくなら、何か別のものを見つけたいところだ。


あ、そうだ。いいこと思いついた。


「……あの、地図、借りてもいいですか?」


「ん?ああ、構わんぞ。そこの袋に入ってるから、好きに使ってくれ」


ゼインさんは、あっさりと許可してくれた。

私は詳細な地図を受け取ると、さっき見せてもらった記憶を頼りに、とある場所へと向かった。


◇◇◇◇◇


「よし、到着!」


目の前には、きらきらと夕日を反射して輝く、綺麗な小さめの川が流れていた。

そう、私が探しに来たのは、川に住む魚である!


いるかどうかは、正直、賭けだったけど……。



いた……。

めっちゃ、いた……!?


川の水は透き通っていて、川底までくっきりと見える。

すごい!大漁だ。


さて、次は、どうやってこの魚たちを獲るかが問題になってくる。


実は私、釣りの経験なんて、一度もない。

釣り竿も、網も、もちろん持っていない。


しばらく、どうしたものかと水面を眺めていると、ふと、またいいことを思いついた。


昨日の狼を撃退した、あの魔法。

あれが、もしかしたら使えるかもしれない。


私は、お守りのようにずっと持っていた木の棒を、ぎゅっと握りしめる。

そして、目を閉じて、強く、強く、イメージする。


この木の枝を、アンテナみたいに、避雷針みたいに、天にかざす。


そこに、空から雷の力が集まってきて、バチバチと電気を纏わせる。


そして、その力を、この棒の先端から、一気に解き放つ!


「よし、行くぞっ!」


目を開けると、イメージが成功したからなのか、昨日の狼の時と同じように、木の棒の周りに、黄金色のきらきらとした光の粒が、ふわりと舞っていた。


綺麗……。


「はぁっ!!」


気合を入れて、その光を纏った木の棒を、川面に向かって突き出す。

すると、雷というよりは、黄金色の光の弾が、まっすぐに水の中へと飛んでいった。


水中で、眩い光が弾ける。


すると、どうだろう……。

さっきまで元気に泳いでいた魚たちが、次々と、お腹を上にして水面にぷかぷかと浮かび上がってくるではないか。


「やった!大成功っ!」


ちょっとやりすぎたかな、とも思ったけど、結果オーライだ。


≪魔法習得度:『雷魔法』レベル1を習得≫


また聞こえた。

たまにあるこれは何なんだろう。


初めてここに来た時も聞こえた。

でも、こうやって強さが見えるならありがたい。


私は急いで川の中に入り、両腕に抱えきれるだけの魚を捕まえた。

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転生したらけもみみ少女?~世界を癒すために仲間たちと一緒に駆け巡ります〜 @sakana_teishoku

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