深淵に咲く詩

深津 瑠華

導入断章:昭和四十三年 七月某日/夜

誰かが、また、花を供えた。赤く、湿って、まるで血のように咲いている。あの子が死んだ日と、同じ花だ。祠の扉が、軋んだ。誰もいないはずの境内で、風もないのに、木々が震えた。いや、これは風ではない。あれが、目覚めかけているのだ。夜が深くなるほど、音が遠のいてゆく。世界から音がなくなるとき、それが再び“開く”兆し。俺は知っている。だが誰も、信じやしない。


※──祠に手を触れるな。それは「誰か」の境界だ。破れば、村は喰われる。

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