第13話「grave」

今日の英単語:grave(グレイヴ)/意味:墓、重大な、重々しい



 エルノアから北西へ三日。

 俺たちは、灰色の大地に足を踏み入れていた。


 その名も、《グレイヴ・ルーン》――“言葉の墓”と呼ばれる、廃都の跡地。


「……なんだか、空気が重い」


 ミアが肩をすくめる。彼女の耳にすら、風の音さえ届かない。

 この場所には、音が存在しない。


「ここって、本当に“図書館の続き”なの?」


「“Key”のスキルが反応してる。間違いない。何かが、ここに眠ってる」



 街の痕跡が、ところどころに残っている。

 崩れた石碑、焼け焦げた紙片、倒壊した塔。


 だがその中で、唯一、綺麗に保たれているものがあった。

 中央の広場――そこに並ぶ、無数の墓標。


「これ……全部、“単語の墓”?」


 ミアの声が震えていた。

 一つひとつの墓標には、英単語が彫られていた。


dream

hope

truth

silence

love


 それは、人々が言葉に込めた想いの、墓標だった。



「……なぜ、“love”が死ぬんだ?」


 俺は、胸の奥が苦しくなった。

 これらは、過去の戦争や災厄によって失われた“言葉たち”。


 言葉は、人が信じる限り生きている。

 だが、忘れられれば――死ぬ。



 広場の奥。

 一際大きな墓標が、俺の“Key”スキルに反応した。


「……ここが、“言葉の封印”だ」


 墓標にはこう刻まれていた。


grave —— 墓、深い、重々しい。

※警告:開封には強い意志と言葉の覚悟を要する


「開けるの?」


「開けなきゃ、前に進めない」


 俺は英単語を口にした。


「Grave――開け」



《スキル【Key】が発動しました》

《言葉の墓標が解除されます》



 大地が震え、墓標が静かに裂ける。

 その中から現れたのは、漆黒の書。


《レクイエム・コード》――“忘れられた言葉”たちが記された禁書。


 ページをめくるたびに、失われた言葉が、微かに蘇るように感じた。


「これが……過去の人々が託した“想い”……」



《条件を満たしました》

【スキル取得:Grave】

──失われた言葉の記憶にアクセスできる。忘れ去られた知識や想いを呼び起こす能力



 俺の中に、静かな記憶が流れ込んでくる。


 それは、ある詩人が残した最後の言葉。


“Even if words are buried,

as long as someone remembers, they bloom again.”

(たとえ言葉が埋もれても、誰かが覚えていれば、それはまた花開く)



 この場所は、死ではない。

 再生の始まりだ。


「言葉は生きている。墓は終わりじゃない。想いがあれば――続きが生まれる」


「……なんか、今のハルト、かっこいいね」


 ミアが少し照れくさそうに笑った。


「お、おう。急に言うなよ」



 俺たちは、レクイエム・コードを懐に収め、新たな地へと歩き出した。

 次に向かうのは、“音の失われた村”――


 そこで待つのは、言葉が通じない者たちとの出会い。



✅ 今日の英単語


grave(グレイヴ)

意味:墓、重大な、重々しい

例文:This is a grave matter.(これは重大な問題だ)

例文:They visited the grave of forgotten words.(彼らは忘れられた言葉の墓を訪れた)



次回:


第14話「sound」


(言葉の届かぬ村で、声なき声を“聞く”力が試される)

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