第2話「heal」

今日の英単語:heal(ヒール)/意味:癒す、治す



「ありがとう、本当にありがとう……!」


 村人たちが口々に礼を言う中、俺は少し戸惑っていた。


(あれだけの魔法を使えたのに、まだ信じられない……)


 右手の指先は、今もじんわりと温かさを残している。

 まるで“ignite”という単語の余韻が、俺の中に残っているかのように。


「でも……」


 ふと、俺の目に映ったのは、一人の少女だった。

 畑のそばで倒れている。服は焼け焦げ、腕は真っ赤に腫れ上がっている。


「誰か、あの子が……!」


 少年が叫ぶ。周囲の村人たちは目を逸らし、誰も近づこうとしない。

 火吹きスライムの炎が、少女の腕を焼いたのだ。


(何か……できることは……)


 今の俺に、治す手段はない。

 だけど、頭の奥から、また一つの単語が浮かび上がってくる。


heal —— 癒す、回復する


 それは、これまで何度も見た単語だった。ゲームでも、教科書でも。

 でも、その本当の意味を、俺は今ようやく理解し始めていた。


 ただ「意味を知っている」んじゃない。

 本当に、その言葉が“何をもたらすか”を理解しないとスキルにはならない。


 俺は少女のもとに駆け寄った。彼女の手をそっと握る。


「痛いの、我慢して……。俺に、治させてくれ」


 目を閉じて、息を整える。

 “heal”という言葉の意味、その力を、心の底から願うように唱える。



《条件を満たしました》

【スキル取得:Heal】

──対象の軽度の傷を回復します



「──Heal」


 俺の手から、やわらかな緑色の光が溢れた。

 少女の腕に沿って光が流れ、焼けた皮膚がゆっくりと色を戻していく。腫れがひき、苦悶の表情が和らぐ。


「……痛く、ない……」


 小さな声でそう呟いた彼女は、俺を見上げて微笑んだ。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 その言葉が、胸に染みた。



 村の長老に事情を話すと、俺のことを“神に遣わされた旅人”と崇め始めた。

 冗談じゃないと思ったが、スキルがあれば生活もできる。しばらくはここで世話になることにした。


 だが、それと同時に決めたことがある。


 この力を使って、もっと多くの人を助けたい。

 そのために、もっと多くの“言葉”を知りたい。


 異世界で生き延びる手段は、俺にとって「英単語」だ。


 覚えるたびに、誰かを救える。

 それが俺に与えられた、“ワードマスター”というスキルの意味なのだから。



✅ 今日の英単語


heal(ヒール)

意味:癒す、治す、回復する

例文:She healed the wound with her magic.(彼女は魔法で傷を癒した)

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