トリニティ・プリンセス!!
秋乃楓
第1話 セカイのヒミツ
夢咲町
そこは誰もが明るく元気に暮らしている場所で
笑顔と活気に溢れている町。
春には満開の桜が咲き誇り普段と変わった街並みを
見る事が出来る為、この景色を見ようと町の外部から来る人達も大勢居る。
そしてこの街では若い少女達の中で囁かれている一つの噂話があった。
-ユメやキボウを持つ者は黒い怪物に襲われる-
悪魔で都市伝説の一環として動画サイトやSNSで流れている噂話なのだが
現に怪物を見たと話す者も居れば別の存在を見たという者も居るらしいが定かではない。だがそれとは別で囁かれているもう一つの噂話が有った。
-人々を守る青色のヒカリを放つ少女が存在する-
それを見た人は彼女の容姿を見てこう名付けた。
夢と希望を守る青色のプリンセスと。
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私立夢見ヶ丘中学校、そこにとある少女が通っていた。
茶色い髪を首元で切り揃えたショートヘア、髪の中程には彼女のチャームポイントでもあるぴょんと出た髪の毛は触覚の様。上下紺色の学生服に身を包んだ少女の名前は花崎さくら、歳は13歳。
彼女は何処にでも居るごく普通の中学生でこれといって目立つような雰囲気も無かった。
「んーーーッ!太陽サンサン、今日も朝から良い天気!!」
さくらは屋上のフェンス付近で大きく背伸びをする。
温かい陽気と程良い風が肌と髪を撫でていると後ろから声を掛けられた。
振り返った際にそこに居たのは黒い髪を左右白いリボンで結んだおさげ髪の同世代の女の子。名前は小日向みゆ、彼女とさくらは小学校からの付き合いでお互いに親友同士。中学校も同じ学校に通えた事から常日頃からずっと一緒だった。
「さーくら、今日も朝から元気だね?」
「おはよ、みゆ!今日も朝から絶好調だよ!!」
さくらの取り柄は明るく元気である事、時にそれが空回りする事もある程に元気が有る。するとさくらはそのままみゆへ話し掛けた。
「そういえば1時間目の授業何だっけ?」
「確か1時間目は算数、2時間目が国語、3時間目は理科、4時間目が体育で5時間目は総合だよ。」
「うへぇ...朝から算数やるの?私、算数嫌いなんだけどなぁ。」
「ふふふッ、さくらは運動だけが得意だもんね?」
「だってさぁ...コーシキとかズケイとかカクドとか言われても解んないもん。そんなの勉強して将来役に立つのかなぁ?」
「私は算数好きだから平気だよ?でも勉強しておけば困らないんじゃない?」
「そうなのかなぁ?」
そんな些細な事を話しているとチャイムが鳴り、始業の合図を告げる。
2人は各々の教室へ戻ると普段と変わらずに休み時間を挟んで5時間目まで授業を受けていた。そして放課後を迎えるとさくらは返り支度をしてみゆの居るクラスへ足を運ぶ、そして彼女を見付けると駆け寄った。
「ねぇ、早く帰ろ!!」
「ごめんちょっと待ってて...。」
みゆが鞄から取り出したのは自分のスマホ、それを慣れた手付きで操作し
とあるサイトを開くとその場で考え始めてしまった。
「それってキラチューブだよね?どうしたの?」
「じ、実は...その......配信する人に...なろうかなって...。」
「それってまさか、みゆがキラチューバーになるって事!?」
さくらが声を上げた途端にみゆが右手人差し指を自分の唇の前へ立てた。
「しーッ!で、でも...やっぱり止めようかなって。」
「...え?どうして?」
「私、さくらみたいに明るくないし...あまり上手に喋れないし...それに失敗したら怖いし...。」
みゆは小さな溜め息をついた時にさくらが右側の開いている席へ腰掛ける、
そして椅子を手前に引いて近寄ると微笑んだ。
「な、何?」
「じゃあさ、私と一緒にやろ?」
「さくらと...一緒に?」
「そうッ!それならみゆも平気でしょ?」
「で、でも...。」
するとさくらはみゆがスマホを持つ手を両手で包み込む様に握り締め、彼女を見ながら話し掛けた。
「絶対成功大丈夫!一直線に真っ直ぐに、自分を信じてレッツゴー!!」
それは普段さくらが良く使うおまじない的な物で何か大きな出来事が有れば
それに挑む前に唱えている。他の友人達にも何かあればそれを唱えて助力したりしていた。
「それって...いつもの大丈夫のおまじない?」
「うん!だからこれで大丈夫...っと!」
白い歯を見せて微笑むとみゆは小さく頷く。
それから2人でサイトのチャンネル名を考えたり、配信する内容を決めたりと
期待を膨らませながら話していた。気が付けばもう夕方で2人は慌てて教室を後にし
玄関で上履きから指定のローファーへ履き替えると帰路へ着く。
「チャンネル作るの、お母さんとお父さんに相談してからにするね。」
「うん、楽しみにしてる!」
「それじゃまた明日。」
「バイバイ!」
路地の途中でみゆと別れたさくらは1人、家路に着いて帰宅する。
玄関のドアを開けて中へ入ると靴を脱いでリビングへ向かう、
ドアを開けると台所に居る40代の男性とソファでテレビを見ている小学2年生の男児がそれぞれ居た。男性の方は花崎晴明、もう1人は花崎陸という。
「ただいま、お父さん!」
「お帰りさくら、夕飯はもう少しで出来るから先に着替えて来ると良いよ。」
「お母さんは?また残業?」
「今日も遅くなるって。そろそろ会社でプレゼンが有るからそれの関係で忙しいんだってさ。」
さくらの母親、花崎香織は現役のOLであり
誰よりも仕事をするタイプで色々と任されるケースが多い。その為晴明は彼女が忙しい場合は仕事が終わったら真っ直ぐに帰宅し夕飯の支度をするというのが日常となっていた。
着替えに向かったさくらが自分の部屋へ入ると突然スマホの通知音が鳴る、開いてみると新しい動画が配信されたという物だった。
「来た来た!蒼風こころちゃんの新曲!!えへへ、ずーっと楽しみにしてたんだよねぇ!」
蒼風こころというのはさくらが前から推しているアーティストで、顔や名前は一切伏せられている謎のアーティストだった。
唯一解るのは彼女を模したとされるイラストだけで白い雪の様な肌、黒い長髪と黒目に対し首から下は黒いパーカーに紺色のホットパンツ、
そして両足はくるぶし丈の靴下と膝下迄あるヒール付きの黒いブーツといった物のみ。
そして彼女の歌声は透き通る様に美しく、そして聡明な物だった。
「ん…?待てよ、私とみゆがキラチューバーになれれば…いつかこころちゃんとコラボ出来るかもしれないって事!?やった、やった!!もしコラボしたら…いっぱいお話して、いっぱい歌って…それから……。」
期待に胸が膨らみ続ける一方、彼女は机の近くに貼られている自分の将来の夢という用紙が目に入る。そこには何も書かれておらず空白のままだった。実はさくらの夢はまだ決まっておらず、もしやりたい事が見つかったら此処に書く事にしている。だがこれといって自分が本当にやりたい事はまだ何も無かった。
「キラチューバー…になるのが私の本当の夢なのかな。」
確かにみゆには一緒にやろうとそう話した。
だが何か違う気がする、そう思っていると下の階から声を掛けられた。どうやら夕飯が出来たらしい事からさくらは急いで着替えて部屋を出ると下の階へ降りて行った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その日の夜。
黒のタキシードに身を包んだ1人の銀髪の男がビルの屋上へ現れた。眼下に広がる街並みを見渡してから彼はそれを鼻で笑う。
「……目障りなヒカリが煌々と輝いている。」
そして右手の指先を鳴らすと背後に無数の黒い
人型の化け物が姿を現した。それはジャマーと呼ばれる怪物、それもまた得体の知れない存在だった。
「行け、そしてユメミルを奪え。」
男がそう指示すると怪物は飛散し闇夜へ溶け込んだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
翌朝、さくらは普段と変わらず登校し放課後まで授業を受けた後にみゆと共に向かったのは夢咲町にある大型ショッピングモール。
動画撮影のネタ探しに行こうという
みゆからの提案だった。
「そういえばチャンネルの方は?」
「危ない事しなければ大丈夫だって。ちゃんとOK貰ったし、投稿する前にお父さんに見て貰う事にしたんだ。そういうのお父さん詳しいから。」
「じゃあこれで私達のチャンネル完成だね!やった、やったぁ!!」
さくらはその場で跳ねて喜んでいた。
それを見たみゆはクスクスと笑いながら前方をスキップしているさくらと共に店内を見て回る。最初に投稿するのは何にしようかと考えて通路を歩いていた時だった。突如として悲鳴が聞こえ、近くの店を覗いてみると鏡の中から現れたのは全身黒づくめの怪物でその目は赤く爛々と輝いている。座り込んで近くに居た女性へ狙いを定めると右手を差し向けて距離を詰めたと思うと彼女から何かを吸い取ってから次の獲物へ狙いを定めた。女性は地面へ力無く横たわったままで動く気配がない。
「ねぇさくら…な、何なの…何あれ!?」
「と、兎に角逃げよう!絶対ヤバいって!!」
2人は人混みに紛れながら逃げるが怪物は次々と獲物とした相手を誰かれ襲う。
男だろうと女だろうとそこには何も関係ない、つまり無作為だった。みゆの手を引いてエスカレーターを駆け下りて3階から1階へ来ては出口の方へ走ろうとする、しかしそれを遮る様にまた同じ怪物が2体上の通路から柵を越えて落ちて来ると
更にそこから3体、4体と増えて合わせて6体の怪物が現れたのだ。
「ウソぉッ!?」
だったらと別の出口へ向かおうと駆け出した時にみゆが躓いて転倒してしまう。
その際に彼女と繋いでいた手も離れてしまったのだ。
「きゃあぁッ!?」
「みゆッ!?待ってて、直ぐに──ッ!」
だが振り返った時には怪物は容赦なくみゆとの距離を詰めると彼女から何かを奪い取っていく。それは明るい桃色の光の様なモノで怪物が持つ右手の平の中へ取り込まれてしまった。さくらは近くに落ちていた看板を拾って必死に振り回して怪物を遠ざけてみゆの元へ駆け付けて傍らで彼女を揺さぶるも反応がない。
「みゆ、みゆ!!返事してよ...嫌だよ...起きてよみゆ!!ねぇ、ねぇってば!!」
何とかして此処から逃げなければと思うが既に間に合わず、怪物がさくらへ狙いを定め彼女に向けて右腕を伸ばした時。何かが目の前へ現れて怪物を殴り飛ばし、大きな物音を立てて怪物が倒れた。そこに現れたのは青色の長い髪を白いリボンでツインテールに結び、白いフリルの付いた青色のワンピースの様な衣装と白いリボンの付いたヒール付きのショートブーツをそれぞれ身に付けた少女。さくらの方へ振り返ると共に両耳に付いているドロップ状の青色の宝石が付いたイヤリングが揺れた。よく見てみると腰には白色の大きなリボンを、そして左右両肩はふわりと膨らんだ白色のパフスリーブがあり、頭部には青色の宝石があしらわれた黄金色の王冠の様な物が有る。両手には白いドレスグローブを、首元には青色を基調とし白いフリルが付いたチョーカーを身に付けていた。容姿からして年齢は恐らく自分と近いか一つ上だろうか?
「ケガはない?」
「私は大丈夫です!でもみゆが...。」
「見せて...ユメミルを奪われたのね。でも大丈夫、アイツらを倒せばこの子に戻って来るから。ティアラ、この子達を早く安全な場所へ!!」
少女が叫ぶと何処からか桃色をしたウサギのぬいぐるみの様なモノが現れてさくらの前へ来た。
「早く一緒に来るラビ!プリンセスが何とかしてくれるラビ!!」
「え?あ、うんッ...!」
みゆを背負ってティアラというぬいぐるみ(?)と共に
離れた場所へ来る、そこへ隠れるとさくらは改めて尋ねた。
「あの...プリンセスって何?ていうかぬいぐるみが喋ってる...!?」
「プリンセスは凄いラビ!選ばれた女の子しかなれない伝説の存在なんだラビ!それとティアラはティアラというラビ、ぬいぐるみじゃないラビ!!」
自信満々に話すティアラの話を聞いた後にさくらは目の前の光景を見つめていた。
プリンセスという肩書を持つ少女が敵へ挑み、一撃を食らわせると今度は相手からの攻撃を可憐に躱し再び反撃を試みるその姿は格好良いだけではなく美しさもあった。
そしてあっという間に怪物達を一掃してしまう。
「凄い...私もあんな風に戦えたら......。」
みゆを守れたかもしれない。他のみんなも助けられたかもしれない。
だが自分は何処にでも居るただの女の子、そんな事は出来る訳ないのは解っている。
すると突然ショッピングモールの奥から大きな物音を立てて現れたのは先ほど見た怪物より一回りも二回りも大きい怪物、そしてプリンセスへ狙いを付けると突っ込んで来た。
「あ、危ないッ!?」
さくらが叫ぶとプリンセスは怪物が放った両手の振り下ろしを上へ飛んで回避、
そして上空から身体を垂直に落下させた状態で右足を振り下ろすと踵落としを
怪物の頭部へ命中させた。そこへ追撃で両足を交互に繰り出して蹴り付けて離れる、怯んだ怪物がたじろぐ様子を見せた時、背を向けるような状態で着地していた彼女は振り返って右手に青色のエネルギーを溜めてから一回転しその場で叫んだ。
「──これでキメてみせる!マリーン、ハイドロ・ストリーム!!」
同時に身体を左へ捻る様な姿勢で右手を突き出すと同時に放たれた青い閃光は振り向いた怪物へ襲い掛かる、そしてそれを防ごうと防御しようとしたが間に合わずそれが直撃した。
「グゥオオオオオオッッッ──!?」
怪物の断末魔の叫びが聞こえたと思いきやそれが消滅。
同時にあの桃色の光が飛散するとそれが被害にあった者達の元へ返っていく。
さくらの元へ来たプリンセスは彼女を見下ろす様に見つめていた。
「ユメミルは取り返したから直に目を覚ます、だから何も心配いらないわ。」
「あ、ありがとうございました...!えっと、その...!!」
「...マリーン。」
「えッ?」
「プリンセス・マリーン、それが私の名前。」
「プリンセス...マリーン...。」
繰り返す様に復唱していたさくらへ向けてマリーンは声を掛ける。
「そろそろ行かないと。貴女達の未来が幸せに溢れ、輝かしい物でありますように。」
ティアラという妖精を連れてマリーンは駆け出すと姿を消してしまった。
それから目を覚ましたみゆと共に帰路へ着くのだがその間もずっとマリーンの
事が気になって仕方がない。つまりそれ程、鮮烈なイメージをさくらの中に残したのだ。
「本当に居たんだ...ネットで噂の青色の女の子。」
さくらがポツリと呟くとみゆが声を掛けて来る。
「さくらってば、どうかしたの?さっきからぼーっとしちゃって。」
「う、ううん!何でもないよ!!それより、みゆが無事で良かったよ...。そういえば身体は大丈夫?何ともない?」
「うん、大丈夫。痛いのは...右膝だけかな。」
「そっか、ずっこけちゃったもんね...。」
「でもさくらも無事で良かった。何か有ったらどうしようってずっと思ってたから。」
自分の事はあのプリンセス・マリーンが助けてくれたとは言えない。
仮に話したとしても信じて貰えないかもしれないから。
この事は自分の中に留めておこうとさくらは心の中で1人誓った。
そして途中で別れると各々の自宅へ向けて歩き出した。
だがまだ終わったわけではない...これは始まりでしかないのだ。
先程の怪物達は果たして何者なのか、そして何処から来たのか、
プリンセスとは何者なのか。少しづつさくら達の日常が変わり始めていた。
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