第21話
村の娘たちがそれぞれの技術を磨き、自立への道を歩み始めたことで、村の生産力はさらに高まった。畑は豊かに実り、質の良い布や木工品、そして薬草も大量に生産できるようになった。これまでの交易で、その品質は町でも高く評価され、村の評判は日増しに高まっていた。
そんな中、俺は新たな可能性を考えていた。それは、隣村との交流だ。この村の周囲には、他にもいくつかの小さな村があるはずだ。これまで、飢えや貧困に苦しんでいた頃は、互いに交流する余裕などなかっただろう。だが、今なら、俺たちの村の豊かな生活を分かち合い、互いに助け合う関係を築けるかもしれない。
ある日、俺はミリアと畑の様子を見に行った帰り道、村の近くで何人かの見慣れない人々を見かけた。彼らは、俺たちと同じように痩せてはいたが、どこか希望のない表情をしていた。鑑定スキルで彼らを見ると、隣の村の住民であることが分かった。彼らが、俺たちの村の豊かな畑を見て、驚いているのが手に取るように分かった。
俺は迷わず、彼らに声をかけた。
「もしよかったら、少し休んでいかれませんか?村で採れたものですが、差し上げますよ」
突然の俺の言葉に、彼らは警戒するように身構えた。しかし、俺が差し出した瑞々しいイモヅルを見ると、彼らの目はわずかに輝いた。
「これは……本当に、いただいてよろしいのですか?」
彼らの一人が、信じられないというように尋ねた。俺は笑顔で頷き、村へ案内した。
村に入ると、彼らはその活気と豊かさにさらに驚いた。整然と並ぶ小屋、手入れの行き届いた畑、そして何よりも、健康的な笑顔で働く村の娘たち。彼らの村とは全く違う光景がそこにあったのだ。
俺は彼らに、温かいイモヅルのスープと焼きたてのパンを振る舞った。彼らは、震える手でそれを受け取り、一口食べると、皆、涙を流してむさぼり始めた。その姿を見て、俺は胸が締め付けられる思いがした。彼らもまた、かつての俺たちと同じように、飢えに苦しんでいたのだろう。
食事を終えると、彼らは俺に、自分たちの村の状況を話してくれた。日照り続きで作物は育たず、魔物ではないが、飢えた獣に作物を荒らされる被害も出ているという。
「もしよかったら、私たちに、この村のやり方を教えてもらえませんか?」
彼らが、切実にそう頼んできた。
俺は快く引き受けた。彼らもまた、この厳しい世界で生き抜こうと必死なのだ。俺は、鑑定スキルで彼らの村の土壌や水源の状況を分析し、簡易加工でできる土壌改良の方法や、効率的な水路の引き方、そして、作物の育て方を具体的に教えた。ルナは、簡易的な柵の作り方を教え、フローラは、病気になった時の簡単な薬草の使い方を伝えた。フィリアは、布の補修の仕方を教え、マリナは、保存食の作り方を伝授した。
数日後、彼らは感謝の言葉を何度も口にしながら、自分たちの村へと帰っていった。彼らの顔には、来た時にはなかった、確かな希望の光が宿っていた。
それからしばらくして、彼らの村から、感謝の品として、この村では採れない珍しい木の実が届けられた。そして、彼らの村も少しずつ活気を取り戻し始めたという報告も、商人の口から伝えられた。
俺たちの村は、隣村との間で、物資だけでなく、知識や技術を共有する、友好的な関係を築き始めたのだ。かつては孤独だったこの村が、今や周囲の村々からも頼られる存在へと成長していた。
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