第11話
畑からの収穫も安定し、イモヅルも大量に手に入ったことで、村の食料事情は劇的に改善された。飢えの心配はなくなったが、俺は次の段階を考えていた。それは、食料の保存と、味の向上だ。
いくら食料が豊富になったとはいえ、生のままではいずれ腐ってしまう。特に、収穫量の多い時期は、食べきれない分が無駄になることもあった。そして、毎日同じような味付けでは、いくら満腹になっても飽きがくるだろう。少しでも、この世界の食事を豊かなものにできないか?
ある日、俺はミリアと一緒に森の奥へと足を踏み入れた。鑑定スキルで動物の痕跡を探す。以前から、この森にはウサギや鳥が生息していることは知っていたが、狩猟の経験も知識もない俺には、手が出せずにいた。
しかし、今日は違う。鑑定スキルは、単に物の正体を知るだけでなく、その性質や状態、時には加工方法まで示唆してくれることがある。俺は、簡易加工スキルと組み合わせることで、何かできるのではないかと考えていた。
しばらく歩くと、茂みの中に小さなウサギを見つけた。俺は慎重に近づき、鑑定スキルでそのウサギを鑑定する。
「小型ウサギ。食用可。肉質柔らかし。簡易加工で解体可能」
やはり「簡易加工」が出てきた。以前、イモヅルの乾燥で応用が効いたことを思い出し、俺はウサギに意識を集中した。すると、頭の中にウサギの解体手順が流れ込んでくる。内臓の処理から毛皮の剥ぎ方まで、まるで熟練の猟師がやっているかのように、俺の体はスムーズに動いた。ミリアは、少し怖がっていたが、俺が手際よくウサギを処理するのを見て、次第に目を輝かせ始めた。
村に持ち帰ったウサギの肉を前に、今度は保存方法を考える。前世の知識で、肉の保存には燻製や塩漬けがあったことを思い出した。特に燻製は、肉に風味を加え、長期保存を可能にする。
鑑定スキルで、燻製に適した木材を探す。「サクラの木。燻製に適す。良い香りを付与」。村の近くに生えていたサクラの枝を拾い集め、小屋の裏に簡易的な燻製小屋を建てた。
肉を塩で揉み、しばらく置いてから、燻製小屋に吊るす。下でサクラの枝を燃やし、煙で肉をいぶしていく。煙が目に染みるが、徐々に肉に香ばしい匂いが移っていくのが分かった。
数日後、出来上がった燻製肉は、琥珀色に輝いていた。香りを嗅ぐだけで、食欲が刺激される。
「これ、本当に食べられるの?」
最初に声をかけてきた、あの警戒心の強かった少女が、興味津々で燻製肉を覗き込んでいる。彼女は、マリナというらしい。最近は、俺の周りで物珍しそうに俺の作業を見るようになっていた。
俺はマリナに燻製肉を一切れ渡した。彼女は恐る恐る口に入れ、咀嚼した途端、その目が見開かれた。
「美味しい……!」
その言葉に、周りに集まっていた他の娘たちも一斉に手を伸ばしてきた。燻製肉は、これまで食べたことのないような深い味わいと、独特の香ばしさで、瞬く間に皆の心を掴んだ。普段は質素な食事しかしていない彼女たちにとって、これはまさに「贅沢」だったのだろう。
肉の他にも、塩漬けにした野草や、干しキノコなど、様々な保存食を作り始めた。食料のバリエーションが増え、冬の蓄えも着実に増えていく。
食料が安定し、味に変化が生まれたことで、村の娘たちの表情はさらに明るくなった。食事の時間は、以前にも増して賑やかになり、笑い声が絶えなくなった。
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